学園パラレル。
行き違うだけの攻防戦
「ナルト‥」
潤んだ瞳で媚びるように向けられた、彼女からの甘い視線。
その意図をすぐに察し、ゆっくりと顔を近づけ口付ける。
今日は親が朝から出かけているため、今この家には自分たち以外誰もいない。
このままさらに進んだとしても、特に問題はないだろう。
ナルトはそのまま深く口付けながら、彼女を近くのベッドへ押し倒していく。
ナルトがその上へ覆いかぶさると、彼女の両腕が自分の首にまわされた。
それを合図に、今度は彼女の首筋へと口付けていく。
甘い吐息を零す彼女に満足げに微笑んだところで、ナルトはふと気付いた。
誰もいないはずの家の廊下から、微かに足音がする。
‥誰だ?
一瞬だけ考えてからすぐに気付く。
この家にチャイムもなしに入ってくるのはただ一人しかいない。
足音は少しずつ自分のこの部屋へと近づき、いきなりノックもなくガチャリとドアノブが回された。
「ナルト、この前貸した本‥」
そこまで言いかけ、ドアを開けた本人はこの部屋の光景に目を見開き固まってしまった。
互いに服はまだ着ているとはいえ、男女二人がベッドの上で抱き合っていれば、これから何をしようとしていたのかすぐに理解できるだろう。
ドアの前で固まったままの彼へ、ナルトはゆっくりと視線を向けた。
「ノックくらいしろってばよ、サスケ」
ナルトが呟けば、彼ははっと我に返ったように目を逸らし、慌ててドアを閉める。
何も言わずに帰っていく足音を聞きながら、ナルトは小さくため息をついた。
後で確実に嫌味でも言われるんだろうな、俺‥。
「今の誰?」
興味津々という彼女の瞳が自分を見つめてくる。
「隣の家の幼馴染、かな」
「かっこいいね。同じ学校なの?」
「‥まぁ。つーかさ、今はあいつのことなんてどうでもいいじゃん」
「ふふ。何?妬いてるの?」
楽しそうに笑みを浮かべた彼女は、先ほどの続きを求めるかのようにまわした両腕に力を込める。
そんな彼女へ視線を向けながらも、ナルトの頭の中では先ほどの幼馴染の姿が何度も散らついている。
サスケ‥。
あいつはただの幼馴染なんだと、何度も何度も心の中で繰り返す。
もうずっと前に、幼馴染への想いには蓋をしたのだ。
「このウスラトンカチが。朝から堂々と盛ってんじゃねぇよ」
「‥‥す、すみません」
家へ来るなり鋭く睨まれ、ナルトは気まずいまま小さく謝るしかない。
結局サスケはその日の夜にナルトの家へもう一度来て、貸していた本を早く返せと言ってきた。
今回も何事もなかったかのような彼の様子に、ナルトは正直ため息が尽きない。
今朝のような場面をサスケに見られるのは初めてではないが、こんな時ナルトはいつも密かな期待をしてしまう。
しかし、ほんの少しでも妬いてくれないかな、という淡い期待はいつも見事に裏切られるだけで。
やはり彼にとって、自分はそういう対象にはならないのである。
「借りてたの、確かこれだったよな。ありがと」
ナルトが借りていた本をサスケに返せば、彼は小さく頷いてすぐに踵を返す。
「え、もう帰んの?」
「何だ。他に何か用でもあるのか」
「‥べ、別に‥」
「だったらいいだろ。じゃあな」
もうここには居たくないとでも言うようなサスケの態度に、ナルトは何も言うことができなかった。
帰っていくサスケを、ナルトは静かに見つめる。
「サスケ‥」
もっと、お前と一緒にいたいのに。
蓋をしても溢れてくる想いを、自分はこうしてただ持て余すことしかできないのだ。