「あのウスラトンカチ‥」

忌ま忌ましげに呟くサスケの目の前には一枚のプリント。


後期の中間テストを終えて生徒の誰もが冬休みムードのなか、生徒にも教師にも冬休み前にまだやっておかなければならないことがあった。
生徒一人一人の卒業後の進路を決めるための、三者面談である。

そのために事前に配られた『進路希望調査』のプリントをサスケは本日クラス全員から回収し、確認のために一枚一枚すべてに目をとおしていたのだが。


サスケの中で厄介な生徒ダントツナンバーワンに位置する生徒のプリントを見た瞬間、サスケはしばらくの間呆然とするしかなかった。


何だ、これは。

サスケの目の前のプリントにはあの生徒にしては珍しく丁寧な字でこう書かれている。

『第一志望 サスケの恋人』
『第ニ志望 サスケの恋人』
『第三志望 サスケの恋人』


‥俺に殺されてぇのか、あのドベは。


このふざけたプリントを今すぐ握り潰してやりたくなるのをサスケは必死で堪えた。









「‥うずまき」


「サスケ!」

昼休み、いつもどおり騒がしいクラスに紛れて名前を呼べば、気づいた金髪頭が満面の笑顔を浮かべてやってきた。


追試の日以来、ナルトは完全に開き直ったようで、サスケを見つければどこであろうと付き纏ってくるようになった。
うっとうしいとサスケが追い払おうとしても全く気にせず、いつだって好きだという気持ちを隠そうともしないのだ。


「何何?俺に何か用事?」


「‥今日の放課後、時間あるか?」

サスケが問うと、ナルトは満面の笑顔をさらに輝かせた。


「もちろんあるってばよ!俺ってばサスケのためならいつでも時間くらい作るって!」


「‥‥そうか。じゃあ放課後に準備室に来い、話がある」


「サスケが俺に話?二人っきりで?」


「‥あぁ、絶対来いよ」


「おう!何があっても行くってばよ!!」





しかし放課後になり、ナルトに向かって例のプリントを目の前に突き出せば、何を期待していたのか満面の笑顔をあからさまに曇らせた。


「何だ、その顔は」


「えーだって、誰もいない準備室に二人っきりっていったらやっぱさぁ〜」

ナルトがぶつぶつと不満そうに何か呟くがサスケは無視を決め込む。
このウスラトンカチが何に不満なのかなど考えたくもない。


「とにかく、このプリントは返却する。真面目に書き直してからもう一度持ってこい」


「真面目にって‥これが今の俺の将来の夢だってばよ」


「そういうことじゃない。自分の行きたい大学名を書けって言ってるんだ」


「でも行きたい大学なんてまだ決めてねぇし」


「だから少しは本気で考えろ。こんなの三者面談で保護者に見せられるわけないだろうが」

来週から始まる三者面談を考え、サスケはため息をついた。
本当に厄介な生徒だ。



「うずまき。将来何をやりたいかとか考えたことないのか」


「別にないってばよ。サスケの恋人になれるなら何だっていいし」


「‥‥‥‥‥‥‥だったら、そうなるための進路を考えろ」


「へ?」


「俺は何も考えずにいいかげんに過ごしている奴は嫌いなんだ」

きっぱりと言い切った言葉に、ナルトが目を見開いた。

しばらくぽかんとしていたナルトの顔には、少しずつ笑みが溢れていく。


「サスケぇ!俺、俺、本気でお前と一緒にいられる進路考えてみるってばよ!!」

がばっと満面の笑顔で抱き着いてくるナルトに、今さらながらサスケは自分の言葉の意味を理解して恥ずかしくなる。

そうなるための進路‥つまりナルトがサスケの恋人になるための進路を考えろ、なんてまるでサスケ自らがナルトと一緒にいたいと言ったようなものではないか。


けれど本当に嬉しそうな笑顔を浮かべるナルトを見ていると、そんなに嫌ではないかもしれないと思ってしまうのが自分でも信じられない。

不意に、前に担当する生徒から言われた言葉を思い出す。
『あいつバカだから、あんた次第でどうにでもなっちまうぜ』

あの時はただめんどくさいとしか思わなかったが、今は。
自分の言葉でナルトが嬉しそうに笑ってくれるなら、悪くないと思えてしまう。


悔しいが最近の自分は、確実にナルトに対して僅かに何かが変わってしまっていると自覚しなければならなくなっていた。







『第一志望 暁大学教育学部』


翌日、サスケは覚悟を決めたような表情のナルトに、進路希望調査のプリントを渡された。





――――――――――

サスケによってナルトの進路が決定‥!

改めてこの話のナルトはサスケを好きすぎると思いました。笑




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