中間考査も終わり、やっとテストからも解放された、と思ったのも束の間。

最悪だってばよ‥。

今、自分の目の前にあるのは数学の試験問題。
半ば予想通りとはいえ、結局赤点を取ってしまったナルトは、現在受けたくもない追試の真っ最中である。

しかも、赤点をとってしまったのは数学。
チラリと教壇のほうへ視線を向ければ、中間考査の時と同じくテスト監督として数学担当であるサスケが座っている。


ナルトは問題を解きながら、誰にも聞こえないようそっと小さなため息をつく。
できれば、サスケの数学で赤点だけは取りたくなかった。

授業中は、サスケが黒板に数式を書いていく姿をひそかに眺めるのが楽しくて、真面目にノートをとることはなかったものの、それでもあの日は自分なりに苦手な数学の勉強を頑張ろうと思っていたのだ。
‥正直九割は、彼と一緒にいたいだけの口実ではあったけれど。


あれからまだ、サスケとは一度も喋っていない。

もちろん今まで通り普通に喋りたいとは思うのだが、どう声をかければいいかでいつも躊躇ってしまう。

サスケは、自分のことをどう思っているだろう。
『好きだ』なんて言ってくる厄介な生徒とはもう関わりたくないと思っているだろうか‥。

最近は、そんなことばかり考えていた。






「うちは先生は今年のクリスマスイブ、誰と過ごすんですか?」


ふとそんな声が聞こえてきたのは、追試を終えてみんなが帰っていくなか、サスケが全員分の答案を纏めていた時だった。

帰る準備をしていたナルトが気づいてそちらへ視線を向ければ、数人の女子生徒がサスケの周りに集まっていた。


「やっぱり彼女とデートなんですかぁ?」

興味津々にはしゃぐ女子たちに、サスケの呆れたようなため息が聞こえてくる。


「誰と過ごすも何も、イブの日は朝から学校だろ」


「でも終業式だから授業は早く終わるじゃないですか。夜からなら十分デートできますよね?」


「確かに生徒は早く帰れるが、教師はいつもどおり残業だ。もちろんそんな予定もないしな」

だから分かったらさっさと帰れ、というサスケの言葉に女子たちは残念そうにしながらも、は〜いと答える。
先生さよなら〜!と教室を出て行く女子たちを、サスケは気をつけて帰れよと見送っていた。


そんなやり取りをぼんやりと見つめていたナルトは、不意に彼女たちから視線を戻したサスケと目が合う。

あ、と思う間もなくすぐに視線が逸らされ、何事もなかったようにお前も早く帰れよ、と言われる。
周りを見れば、教室に残っているのは自分だけだった。


集めた答案を確認しているサスケに何か言おうと思うが、サスケとまともに話すのはあのテスト勉強の日以来で何を話せばいいのか分からない。

他の生徒と同じように『先生さようなら』と言って教室を出ればいいのかもしれないが、そんなことをしたらもう二度とサスケと二人で話すチャンスがなくなるような気がしてできなかった。


あの時のような、焦燥感が募る。


先程の女子たちの会話で今さらながらに気づいたが、今はもう12月なのだ。

サスケがこの学校にいるのは終業式まで。
残り一ヶ月もなく、本当に時間がない。


何か言わなければ。
ただひたすらにそれだけを考えていると、不意にガタリと音がして、ナルトは慌てて俯いていた顔を上げる。
答案用紙を抱えたサスケが席を立ったところだった。


「サ、サスケ‥!」

教室を出て行こうとするサスケを慌てて呼び止める。

呼ばれたサスケは出て行こうとした足を止め、ゆっくりとナルトを振り返った。


「‥何だ。まだ帰らないのか」


「あの‥サスケと、話がしたくて‥」


「話?」


「‥俺、お前のこと諦めらんねぇよ‥。フラれたって‥好きだ‥」

何か話さなければ、サスケが行ってしまう。
けれどやっぱり話すことが見つからなくて、ナルトは今の自分の気持ちを正直に言うしかなかった。

また迷惑だと言われるかもしれない。
またフラれて、さらに落ち込むだけかもしれない。

それでも伝わってほしかった。
ただの生徒としてではなく、サスケに想いを寄せる一人の男として見てほしかった。


これだけは本当の気持ちなんだと伝えたくて、サスケだけを真っ直ぐに見据えながら彼のもとまでゆっくりと歩いていく。
サスケはそんなナルトに一瞬目を見開き、苦しげに顔をしかめた。


「‥‥お前は、俺をどうしたいんだ‥」

ぽつりと呟かれた声には、拒絶というよりも動揺が含まれているように感じた。


「サスケ‥?」


「‥お前は‥俺に、何がしたいんだ‥」


サスケのどこか苦しげな表情に、ナルトの胸がツキンと痛む。

もしかして自分の気持ちが重荷になってサスケにこんな表情をさせているのだろうかと考えて、ナルトはどうしようもない切なさを感じた。


「サスケ‥ごめんな‥」


諦めきれなくて、ごめん。


「もう一度だけでいいから‥俺にチャンスをくれってば」


「‥チャンス‥?」


「終業式の日に‥もう一度、返事が欲しい」

終業式の日まで、ただの生徒ではなく、一人の男として見てほしい。
恋愛対象として本気で見てほしいと告げたナルトに、サスケは意味を理解して目を見開く。


「そんな、こと‥」

できるわけない、と言おうとしたのだろうサスケの口を、ナルトは自分のそれで塞ぐ。


「ん‥‥っ」

ぴくんと肩を揺らしたサスケの体をナルトは優しく抱きしめた。


「お願いだってばよ、サスケ‥」

それでも無理なら、頑張って今度こそ諦めるから。

ナルトの必死な覚悟を感じたのか、サスケは再び苦しげな表情に変わる。
ナルトがサスケを見つめながら少し腕に力をこめれば、抱きしめた体が僅かに震えた。



「‥‥‥分かっ、た‥」


しばらくの沈黙の後、サスケが微かな声とともに頷く様子を見て、今度はナルトが目を見開く。


「ほん、とに‥?」


「‥‥嘘なんか、つかねぇよ‥」


「サスケぇ‥!!」

ぎゅうぎゅうと抱きしめながら、ありがとな、ありがとな、と何度も呟く。


自分の好きで好きでたまらない相手が、拒絶することなく本気で自分を見てくれるのだと言った。

もうそれだけで、泣きたいほどに嬉しかった。






――――――――――

よ、ようやく更新‥!
ここまで来たらサスケさんがほだされちゃうのも時間の問題ですね〜笑

最後はさりげないクリスマスネタになりそうです。
実際のクリスマスに間に合ったら‥いいな‥(←どこまでもただの願望である)




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