残された恋





『俺たち、付き合うことになったんだ』


ナルトとサクラが同期の皆にそう報告したのは、もう一月くらい前になる。

ナルトはアカデミーの頃からずっとサクラに片想いをし続けていた。
サクラのほうも、ナルトに興味を示すことのなかった昔とは違い、最近では誰もが認めるほど強くなったナルトに惹かれ始めているようだった。


『おめでとう!』

付き合うのも時間の問題だろうとひそかに思われていた二人を同期の誰もが笑顔で祝福する中。

ただ一人サスケだけは、彼らのように心から笑って二人に祝福を伝えることがどうしてもできなかった。








「正直に言うとさ、今だにちょっと信じられねぇんだよな。俺がサクラちゃんと付き合ってるなんて」

そう言いつつも照れ臭そうに笑うナルトは、誰が見てもサクラとの関係が順調で幸せなのだと分かるだろう。


「俺の前で惚気んな。うざい」


「へへへ、サスケってば羨ましいんだろ。けどサクラちゃんはやらねぇってばよ」


「誰も羨ましいなんて言ってねぇよ、ウスラトンカチ」


「俺はサクラちゃんを絶対ぇ幸せにする。だからサスケ、お前もいつか好きな子ができたらさ、その子を精一杯幸せにしなきゃ駄目だかんな」


「‥‥‥‥」


「そんでお前自身も、その子に精一杯幸せにしてもらえよ!」


誰かを幸せにするという決意に輝く青い真っ直ぐな瞳は、悔しいけれど自分がずっと惹かれ続けているあの瞳で。


ナルトの決意とともに、サスケも口には出さない一つの決意をする。

この男への想いに、そっと蓋をすること。
そして、ナルトの一番の親友として、ずっとそばにいること。

ナルトが幸せなら、自分はそれ以上何も望まない。
闇の中にいた自分を救い出してくれたあの日から、ナルトの笑顔だけがサスケの幸せになっていたのだ。






しかしその数日後、全てが順調なはずの二人に思いもよらぬ出来事が起きる。



その日、知らせを受けたサスケが急いで木の葉病院へ向かうと、同期たちに見守られながら病室のベッドで眠っているナルトの姿があった。
見守る仲間たちの中心には、サクラの後ろ姿が見える。


「‥一体、何があった‥?」

ナルトが木の葉病院に運ばれた、という知らせしか聞いていなかったサスケには、今のこの状況が全く分からなかった。



「任務での情報ミスがあったんだ」


「‥シカマル」

同期の仲間たちの中、サスケにすぐに気付いたシカマルが、今に至る経緯を話し始めた。



シカマルの話によると、今回のナルトの任務は盗まれた機密文書の奪取だったが、前もって聞いていた情報が甘かったらしい。
実際よりもランクが低く設定されていたため、ナルト以外のメンバーには手に負えるレベルではなかった。

それでも何とか任務は遂行したのだが、戦闘中に仲間を庇った際に、ナルトは頭に強い攻撃を受けたのだという。


「‥大丈夫なのか、ナルトは」


「あぁ、幸い命には別状はないらしい。‥九尾の力がなかったら、やばかったかもしれねぇけどな」


「‥そうか」

数日もあれば目を覚ますだろうって、綱手様が言ってたぜ。

シカマルの言葉に、サスケは心から安堵のため息を零す。


あいつが無事で、本当に良かった。






数日後、ついに目を覚ましたというナルトに、綱手やカカシ、同期全員がナルトの病室に集まっていた。


「心配かけて!このバカ!!」

サクラの涙を堪える姿を、ベッドから上体を起こしたナルトがぼんやりと静かに見つめる。

それに続いて、無事で良かっただの、お前は本当にアホだのと、同期たちが一斉に声をかけていく。
嬉しそうに笑う彼らを、ナルトは同じく何も言わずにただ見つめていた。


そんなナルトに、サスケは妙な違和感を感じた。

具体的にどこが、と言われればうまく説明はできないが、それでも何かが違うと思った。


「ナルト、気分はどう?どこか痛いところはある?」

静かなナルトに体調が悪いのかもしれないと判断したのか、サクラが心配そうに問い掛ける。

それに気付いたナルトが再びサクラへ視線を向けた。


「‥‥‥ナルト、ってさ‥」


「え?」


「‥‥ナルトって‥俺の名前?」


不思議そうに首を傾げたナルトに、病室全体の空気が一瞬にして変わる。

思わず全員が固まってしまった中、次のナルトの言葉は、自分たちにさらに追い撃ちをかけた。



「‥ていうか、みんな誰だっけ?」



からかっているようには見えないナルトに、室内の誰も言葉が出ない。


違和感を感じていたサスケも何も言えずに見つめていると、不意に今日初めてナルトと目が合った。

突然でどうしようかと思わず目を逸らそうとした時、ナルトが驚いた声であ、と声を出した。


室内全員の視線がすぐにサスケへと向かう。


「‥‥お前、すげぇ‥」


「‥‥‥‥ナルト‥?」


「‥すんげぇ、綺麗だってばよ」

ぽっと照れたように頬を赤らめるナルトを、サスケは呆然と見下ろす。


いきなり何を言い出すんだ、この男は。

困惑するサスケに構わず、うっとりと熱い瞳を向けるナルトがこちらへ手を伸ばしてくる。

そして、サスケの手を両手で大事そうに握ったナルトは、屈託のない、誰もが知るあの太陽のような笑顔を浮かべた。


「なあ、俺と付き合ってくれってばよ」





――――――――――

というわけで、今度はナルト記憶喪失ネタ。

サクラと付き合っていながら、記憶を失った途端にサスケに一目惚れするナルト。




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