恋は始まっている





「お前の好きな子って誰だよ?」


任務の後、いきなりそう問いかけてきたのは、今日もいつものように予想外のドジをしてはサクラに叱られていたウスラトンカチ。

今日も一旦家に帰ってから修業しようと考えていた時、サクラを必死でデートに誘っていたはずのナルトがいつの間にか真剣な表情でサスケの前に立っていた。


「は?いきなり何言ってんだウスラトンカチ」


「だからぁ!サスケには好きな子がいんだろ?それを俺に教えろって言ってんの!」

やけに真剣な顔で問いただそうとするナルトに、サスケは全く意味が分からない。
そもそも何故自分に好きな人がいること前提になっているのだ。


「てめぇ勝手に決めてんじゃねぇよ。俺がいつ好きな奴がいると言った?」


「そんなの見てたら分かるってばよ。任務の後にはサクラちゃんが毎日デートに誘ってくれるのに、お前はいっつも断ってる。つまり他に好きな子がいるからなんだろ?」

あんな可愛いサクラちゃんからの誘いを断る男なんていねぇってばよ。
自信満々に話すナルトに、サスケは頭が痛くなる。

こいつは一体どれだけの物事を自分を基準にして考えているのか。
ナルト自身はサクラが好きだから、他の男もそうだとでも考えているのだろうか。


「てめぇと一緒にすんな。俺はお前たちの言う恋愛なんか興味ない。どうだっていい」

強くなるために、いちいち恋愛なんかに浮かれている暇はないのだ。

これ以上は邪魔だと目の前のナルトを無視して通り過ぎようとすると、気づいたナルトにすぐに腕を掴まれる。


「離せ」


「離さねぇ。話はまだ終わってねぇってばよ」


「くだらない話を聞く暇はない」


「くだらなくなんかねぇよ。俺は真剣だ」

じっと真っ直ぐに見つめられ、何故か思うように抵抗ができなくなる。
こんなドベなんか力一杯振り払ってさっさと予定通りに修業へ向かえばいいはずなのに。

チィと舌打ちして、サスケは仕方なく再びナルトと向き合う。
先ほどからわけの分からないナルトにてめぇは結局何が言いてぇんだ、と小さく睨めば、ナルトは掴んでいたサスケの腕をゆっくりと離した。


「サスケ、ほんとに好きな女の子とかいねぇのか?」


「まだ言ってんのか。いないって言ってるだろ」


「‥可愛いなって思う女の子、いねぇの?」


「だから俺にはそんなの興味ねぇよ」


「女の子に興味ねぇの?ほんとに?」


「さっきからそう言ってるだろ。しつこい!」

いい加減鬱陶しくなり、サスケはギロリとナルトを睨みつける。
しかしそんなサスケを気にすることなく、ナルトは何か考えた後、ぐっと顔を近づけてまじまじとサスケを見つめてきた。


「‥何だよ」


「お前ってば、もしかして‥」


「‥?」


「‥‥男ならいい、とか?」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥は?」


「だってそうだろ?女の子に興味ねぇなら、他にはもう男しかいねぇってばよ」

お前ってば実はそうだったのか!と心なしか嬉しそうにも聞こえる声で、ナルトは一人勝手に納得している。


「お前が、男にしか興味ねぇっていうなら‥」

ナルトに何故か熱く見つめられながら、ぎゅっと優しく両手を握られる。


「俺が‥付き合ってやってもいいってばよ」


近かったナルトの顔がさらに近づいてくる。


サスケにはもう何が何だか分からない。
こいつは、一体何を言っているんだ?

頭の中が混乱しているうちに、サスケの唇には温かくて柔らかい感触が訪れた。


ちゅっと小さな音をたてて唇が離れ、それがキスだとようやく気づいた時には、すでにサスケはナルトの腕の中にいた。


「サスケ、今日から俺たち恋人同士だってばよ!」

嬉しそうに、愛しそうに見つめてくる、ナルトの青い瞳。

逆らえる気がしないのは、何故だ。



「ナルト‥」


「サスケェ、大好きだってばよ」


聞いたこともない甘い囁きに、抗う術などありはしなかった。





 end




――――――――――

懐かしき一部の下忍ナルサス。

『女に興味ない=男にしか興味ない』という少しズレた前向き思考のナルトと、どこまでも流されやすいサスケ。
ナルトの『大好きだってばよ』は最強の口説き文句だと思いますv




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