後期の中間考査。
今日から始まったテストにより、サスケは1限からずっとテスト監督を行っていた。
隅で椅子に座り、サスケは静かな教室を眺める。
時間も終わりに近づいていて、半数の生徒がすでに手を止めていた。
生徒全員を見渡せば、ふと一人の生徒と目が合う。
うずまきナルトだ。
目が合った途端、ニカッと満面の笑みを向けられた。
「‥?」
相手の意図が分からず眉を寄せると、ナルトは口だけを動かして何かを伝えてきた。
『サスケ』
『待ってて』
サスケにはそう読み取れたが、何が言いたいのかはよく分からない。
訝しげに眉を寄せたままナルトを見るが、本人は気にした様子もなく、楽しそうに笑っている。
何がそんなに楽しいのか。
やっぱりこの生徒は、いまいちよく分からないと思う。
ため息混じりにそんなことを考えていると、頭に過ぎるのは数日前の彼のあの顔。
今自分に向けられている笑顔とは全く違うものだった。
ドクン、と。
一度だけ、心臓の音が大きくなったのを覚えている。
知らない感覚。
一体何だったのだろう。
サスケは答えを探すように、静かにナルトを見据えていた。
「サスケ!」
テストの終わりを告げるチャイムが鳴り、テストを回収して教室を去る。
そんなサスケを廊下で呼び止めたのは、ナルトだった。
「勝手にどこ行くんだってばよ!」
「?何のことだ」
意味が分からない、というようにサスケが呟けば、ナルトは少し拗ねたような顔をする。
「さっき言ったじゃん、『待ってて』って」
「‥‥あぁ」
そういえば、とサスケは思い出す。
あれはそういう意味だったのか。
「俺、サスケに頼みがあるんだってばよ」
「頼み?」
「そう!確か明日は数学があるだろ?赤点とらないように、俺に勉強教えてほしいんだってばよ!」
「‥‥‥」
そう言うナルトに、サスケは訝しげな顔をする。
真面目に授業を受けないくせに、自業自得だろ。
内心サスケは思う。
しかし教師である以上、こういう頼みを無視するわけにはいかない。
「‥サスケ、この後忙しいのか?」
サスケの沈黙をどう捉えたのか、ナルトはさっきよりも遠慮気味に問い掛けてくる。
「‥‥時間は、ある」
サスケがぼそりと呟けば、ナルトはすぐにぱぁっと笑顔になる。
「じゃあ!じゃあ!HRが終わったら教室で教えてくれってばよ!!俺、ちゃんと勉強するからさ!!」
「‥あ、あぁ」
ズイッと顔を近付け、キラキラと効果音が鳴りそうなほどの満面の笑みで言われ、サスケはとりあえず小さく頷いた。
「へへ!ありがとサスケ!じゃあ、また後で!!」
途端にご機嫌になったナルトは、さっさと教室へ戻っていく。
何なんだ、一体‥。
今だ立ち尽くすサスケは、教室へ戻る彼の後ろ姿を呆然と見送った。