黒板に字を書く音、ノートに字を書く音、教科書をめくる音。
それらが響く静かな教室内。

今は数学の授業中。
担当は、このクラスの担任代理。


「‥‥‥」

時計を見れば、授業終了15分前。
サスケは黒板に数式を書いていた手を止め、ちらりと教室内を見渡した。

大半の生徒の視線は黒板に向けられ、必死でノートに写している。
また、それとは反対に机に頭を伏せ、堂々と居眠りをしている生徒もいた。

‥奈良と犬塚か。

いつもと変わらず居眠りをする二人に、すでに慣れたサスケは怒りよりも呆れのほうが大きい。


「今日は残りの時間で、教科書32ページの応用問題を解いて終わりにする。出来なかった奴は宿題だ」

サスケの言葉に、今度は生徒たちの視線が急いで教科書へ向かう。
それを満足そうに眺めて、サスケはまだまだ熟睡中の二人の元へ近づいた。


「奈良!犬塚!さっさと起きろ!」

いつものように、バシバシと教科書で軽く二人の頭を叩く。


「ん〜?何だ、サスケかよ‥」


「‥あ?いい気分で寝てたのに、めんどくせぇな‥」

起こされたキバとシカマルが大きな欠伸をしながら呟く。


「いい加減真面目に授業を受けろ。あと教師を呼び捨てにするな」


「はいはい」

テキトーな返事をしながら、シカマルとキバは開いてもいない教科書へ視線を向ける。


「サスケ、今日は何ページ〜?」


「32ページの応用問題だ」


「げ。こんな難しいやつ俺に分かるわけねぇじゃん」


「あーあ、めんどくせぇな‥」

問題を見た瞬間に再び寝ようとする二人の頭を、サスケは先ほどと同じくバシッと叩いた。


「授業聞いてないんだから分からなくて自業自得だろうが‥」

二人の全くやる気のない様子に仕方ないとため息をつきながら、サスケはキバの隣の席へ視線を向ける。


「日向、悪いが犬塚と奈良にこの問題教えてやれ」


「‥は、はい」

呼ばれたヒナタが慌てて返事をし、写したノートを二人に見せながら説明を始める。


これでとりあえず二人は大丈夫だろう。
勉強を教わる二人を眺め、サスケが再び教室内を見渡していると、そこで自分の中の一番の問題児を思い出す。
サスケは、今度はその問題児の席へと近づいた。


「今日もノートをとらないんだな、うずまき」

サスケが呆れ顔でそう言うが、ナルトには悪びれた様子は全くない。


「めんどくせぇもん」


「もうすぐ中間だろ。また赤点になってもいいのか?」


「テストなんてどうでもいいってばよ。俺には他にもっとやらなきゃいけないことがあんの」

そう言って僅かに顔を歪めるナルト。

何か悩みでもあるのだろうか。


「‥そんなに大事なことなのか?」


「うん」


「テストよりも、か?」


「うん、そう」

ナルトの表情が変わる。


「俺は、後悔したくねぇんだ」


いつもより、若干低くなった声。

息を呑む。
自分を真っ直ぐに見据える蒼い瞳が、何かを訴えてくる。

何だ、これは。

ナルトの瞳から目が離せない。
まるで、金縛りにでもかけられたかのように動けなくなる。


こんな顔、知らない。


サスケを我に返らせたのは、授業の終わりを告げるチャイムだった。






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