「‥何を、言っている?」

意味が分からない。
何かの間違いだと思った。
自分に妊娠なんて、有り得ないはずだ。

だって、自分には‥。


「‥サスケくん、恋人は‥」

サクラの言葉に、サスケは弱く左右に首を振る。

恋人なんていない。
できたことなんて、一度もない。

サクラだって知っているはずだ。


「‥何かの、間違いだろ‥」


「うん‥そう思って何度も検査したんだけど‥」

結果は、全部同じだったの。
そう言うサクラは、心配そうにサスケを見つめる。


「サスケくんは妊娠三ヶ月で間違いないわ。‥ねぇ本当に、心当たりがないの‥?」


ない。そうはっきりと言いかけたサスケの脳裏に、不意に忘れかけていた記憶が蘇る。


どくん、とサスケは嫌な予感に襲われた。

恋人がいないから、絶対に自分には心当たりがないのか?‥本当に?


何ヶ月か前の、あの夜。

同期が珍しく全員集まった、あの飲み会の日。


自分は酔い潰れた金髪の男を家まで送った。

その男の、部屋で。


『サスケ‥』

甘く囁かれる声に誘われて。
お互い完全に酔っていることを言い訳にして。

ただの夢だと思った。

今までずっと秘めてきた想いが、願望が、自分に見せた都合のいい夢なのだと。


翌朝、気付いたら自分の部屋にいたのに。
酔っていたせいで、夢と現実が曖昧だった。


「‥‥‥まさ、か‥」

決してあってはならない事実に、サスケは真っ青になる。

それに気付いたサクラの表情に、より一層心配そうな色が増す。


「‥サスケくん‥心当たりが、あるの?」


「‥‥‥」


「‥ねぇ、それって‥」

あいつ?
そう問うサクラが誰のことを言っているのかすぐに分かり、咄嗟にサスケは否定しようとする。

しかし、サクラの確信に満ちた瞳に隠すのは無理だと瞬時に悟った。


「‥あいつには言うな」


「サスケくん‥」


「あいつは‥多分覚えてねぇから」

あの日の翌朝、偶然会ったナルトはいつもと何一つ変わらない様子だった。

だから自分も、あれはただの夢だったんだと、そう思い込んでいた。


「でも‥いつまでも黙っているわけにはいかないわよ?こうなってしまった以上、もうサスケくん一人だけの問題じゃないの」


「‥あぁ、分かってる」


「じゃあ、あいつはあと数日もあれば任務から戻ってくるし、その時にでも一緒に報告しましょ」


「‥いや、あいつにはまだ言わない」


「サスケくん!」


「あいつにはちゃんと俺から話す。‥けどそれは、あいつが火影に就任したら、だ」

サスケの言葉に、咎めるような悲しむような視線を向けていたサクラが目を丸くする。

彼が七代目火影に決まったのはもうかなり前のことで、就任式の日もすでに間近だった。


「火影就任までのこの大事な時期に、あいつを煩わせるようなことはしたくない‥」


普通の恋人だったなら、まだよかったと思う。

けれど自分はあいつの恋人なんかではなく、記憶さえもないただの一夜の過ちにすぎない。
それに何より、自分には里抜けという重罪に値する過去まで持っている。

あいつの就任に何か影響が出るかもしれない。

自分を良く思っていないだろう上層部に、知られるわけにはいかなかった。


「‥‥分かったわ」

しばらく経ち、サクラは頷いた。


「就任までの間は、あいつには何も言わない。けど、約束よ?就任式が終わったら、ちゃんとあいつには話すって」


「‥あぁ」


「あいつは、無責任な男なんかじゃないわ。たとえ覚えてなくっても、あいつなら、ちゃんとサスケくんを幸せにしてくれる」

だから、絶対に一人で抱え込もうとなんて考えないで。
そう言ってサスケの手を両手でぎゅっと握るサクラに、小さく頷く。


本当は。

本当は、だからこそ自分はあいつには言いたくないのかもしれない。


『あいつは無責任な男なんかじゃないわ』

妊娠したと報告すれば、馬鹿みたいにお人よしのあいつは責任をとって絶対に結婚しようと言い出すだろう。

自分は彼のことが好きだからかまわない。

けどあいつは?
好きでもない相手と結婚した挙げ句、子供ができてしまっただけであいつは自分に一生縛り付けられてしまうのだ。

まだサクラのことが好きなんだろうか。
それとも別に好きな人がいるのか。


彼のこの先の未来を想えば、本当に自分が告げてしまってもいいのか、分からなかった。





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ありがち展開ですが、まだしばらく続きます。

次回はようやくナルト登場‥かな?





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