妄想グローバルガール
2015.05.24 Sun
『私鉄の電車内は異常に冷房が効いていて寒かった。まだ5月だというのに、ついこの間まで節電、節電と提唱していたのは一体なんだったのか。そんなこと、まるで何か一過性のブームのように忘れ去られていく。ブームはリバイバルするというから、また数年したら騒ぎ出すのだろうな、と辟易する。そういえば、私はそのブームにはあまり乗らなかった。太眉ブームには乗ったけど。極太の眉をこさえて先輩にぎょっとされたのは黒歴史だ。今でもほんのりと太眉の流れが漂っているけれど、私は私に合う自然な眉にしている。ナチュラルに生やした整えただけの(ように見える)太眉というのは、恐らくハーフやガイコクジンへの憧れからきていると思われる。私だってできれば、ラテン系ハーフに生まれたかった。幼少期をヨーロッパですごして、その国の言語と共通語の英語、そして覚えたての日本語を操る。少しカタコトながら日本の小説が大好きな私は濃いまつげに縁取られたくっきりとした平行二重の顔で難しい単語を正しい意味で使いこなす。それにグローバルな視点を持った私は、アジアにも興味があって中国語だってかじっているし、ロシア文学に興味をそそられてチェーホフを原語で読みたくて目下勉強中だ。モデルになれるってほどスタイルはよくないけど、ヨーロッパ人特有の上がったヒップと高い腰の位置のおかげでジーンズを綺麗に履きこなす。いつもぺたんこのシンプルなバレエシューズを履いて、デニムに形のいいTシャツを着て、栗毛色の髪を無造作にまとめている。ハイブランドには興味がなくて、フィレンツェで買った革のしっかりした鞄を愛用している。経年変化したそれはいい感じの色合いで私によくなじんでいる。ヨーロッパで育った私は、上手に自己主張して周りに流されたりなんかしない。はっきりと物事を言えるし、人間関係に気をもんだり顔色をうかがったりなんか、思いついたこともない。かといって、世間でもてはやされる歯にもの着せぬハーフタレントたちみたいに下品なことを言ったりしない。日本人の父親の影響で昔から日本の美徳に大変関心があって、厳格な祖父母を尊敬しているから、日本文化にも造詣が深い。海外生活を羨ましがる友人たちにこともなげにこう言ってみせる。「私のアイデンティティーは日本にあるわ。半分しか流れていなくても、私は日本人よ」そして、白く綺麗な歯並びを見せて笑う。