※簡単なようでいて難しい事
 03.29 01:06



「自分を見つめるっていうのは、それはそれは酷なことだよね、青少年」

「……どうした野々田。何かあったか」

「いや、別に? 思考を暇潰しにするしかない受験生の嘆きだよ」


 さらりさらり、自分の髪に指を通しながら、野々田は薄く笑って首を振った。

 高校三年生。受験生である。

 学年全体が醸し出す空気の所為で、確かに、暇潰しは思考に逃げるくらいしかない。
 しかしそれが、なんとなく鬱屈とした雰囲気に拍車をかけていることもまた、事実だった。


「ねえ、青少年は自分自身のことは好きかな」

「……好きだったら苦労しないだろうな」

「ふふ」


 くるりと右手に持ったペンを回し、野々田は静かに笑う。銀色の縁で囲まれたガラス、更にその奥で、瞳が弓形に細まる。


「まあ、自身を好きな人が苦労しないのかどうかは置いておいて。お姉さんが思うにね、きっとそれは、自分を好きじゃないと言える自分が好き、なんじゃないかと思うんだよ」

「はあ……要は、何が言いたい?」

「つまり、人は自分に、自分の好きな部分しか見せていないよね、ということなんだけど。どう思う?」


 薄い肩から髪を零れさせ、彼女は首を傾げた。

 ガラスの奥、深い深い瞳。底の見えない色に、頭が揺れる。





 力尽きました。

 卒業する先輩方に、「君はもっと、自分の本当を見せなきゃいけないよ」と言われて、様々考えたら分からなくなりました。

 とにかく、難しいねってことで。





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