「自分を見つめるっていうのは、それはそれは酷なことだよね、青少年」 「……どうした野々田。何かあったか」 「いや、別に? 思考を暇潰しにするしかない受験生の嘆きだよ」 さらりさらり、自分の髪に指を通しながら、野々田は薄く笑って首を振った。 高校三年生。受験生である。 学年全体が醸し出す空気の所為で、確かに、暇潰しは思考に逃げるくらいしかない。 しかしそれが、なんとなく鬱屈とした雰囲気に拍車をかけていることもまた、事実だった。 「ねえ、青少年は自分自身のことは好きかな」 「……好きだったら苦労しないだろうな」 「ふふ」 くるりと右手に持ったペンを回し、野々田は静かに笑う。銀色の縁で囲まれたガラス、更にその奥で、瞳が弓形に細まる。 「まあ、自身を好きな人が苦労しないのかどうかは置いておいて。お姉さんが思うにね、きっとそれは、自分を好きじゃないと言える自分が好き、なんじゃないかと思うんだよ」 「はあ……要は、何が言いたい?」 「つまり、人は自分に、自分の好きな部分しか見せていないよね、ということなんだけど。どう思う?」 薄い肩から髪を零れさせ、彼女は首を傾げた。 ガラスの奥、深い深い瞳。底の見えない色に、頭が揺れる。 ◇ 力尽きました。 卒業する先輩方に、「君はもっと、自分の本当を見せなきゃいけないよ」と言われて、様々考えたら分からなくなりました。 とにかく、難しいねってことで。 |