庵島様より。
 2017.04.29 Sat 16:45
それぞれの共闘


>>和水様宅 千歳ちゃんとフィルネちゃんを拝借いたしました
>>シノブ+セシル+千歳ちゃん+フィルネちゃん




窓から差し込む朝日に目を細めつつ、眼下に迫る朽ちた大図書館に目を遣る。ヘリコプターが徐々に高度を下げ着陸の準備に入る。先程まで痴話喧嘩を繰り広げていた同僚らも、任務に思いを馳せているのか口を噤んでいる。ヘリコプターは静かに高台へと神機使いたちを下ろすと、戦場を去っていった。

「ほな、さっきの手筈通りに行きましょか」

千歳が作戦を確認すると、三人は静かに頷いた。目下の戦場内では既に鬼の顔を持つ四足歩行のアラガミ――オウガテイルとその上位種であるヴァジュラテイルが闊歩し、空には大きな一つ目を持つ堕天使――ザイゴートが見張りの様に巡回している。

「ザイゴートか。厄介だな」

苦虫を噛み潰したような顔でシノブは呟く。ザイゴートはアラガミを引き寄せる性質があり、彼女らに見つかってしまえば分断作戦は厳しいだろう。

「おい、フィルネ」

セシルが不意に横で神機の感触を確かめているフィルネに声をかける。彼女は訝しげに彼に視線を向けた。

「……何?」

「どっちが多くザイゴート狩れるか勝負しようぜ。勝った方が今晩おごりで」

ニヤリと口角を上げながらセシルは提案する。突然の提案にフィルネは目を丸くした。

「は!?」

ちょっと、と戸惑うフィルネの返事は聞かず、セシルは神機をアンロックして戦場に飛び出す。フィルネも素早くロックを外すと彼の後を追って高台から跳躍した。慌ててシノブと千歳も後を追う。

「二人とも、作戦守ってくれないんかいな……」

あきらめた様に呟く千歳に、シノブは心底同情したように声をかける。

「仕方ない、小型アラガミの掃討はセシルとフィルネに任せてこっちでマータを足止めしよう」

セシルが決まりに逆らう時は、決まってその作戦が局面に対して効果的でないときだ。軍人として戦場に出たことのある彼は臨機応変な対応で生き残ってきたのだ。今回の事前情報にはオウガテイルとヴァジュラテイルしかいなかったため、ザイゴートというイレギュラーに対応するには不本意ながらセシルの選択が正しいのだろう。

「千歳、背中は任せたぞ」

シノブが微笑むと、千歳もその言葉に頷く。旧図書館の奥へと続く一本道を索敵しながら進む。開けた広場で小型アラガミに斬撃を叩き込む同僚らを視界の隅に確認すると、前方に標準を絞った。理想はプリティヴィ・マータを遺構の奥へと誘い込み他と分断すること。程無くして揺らめく白銀の尾を発見する。千歳とシノブは目配せすると、シノブが渾身の力を込めて鋭い突きを女王の足に向けて繰り出す。

――グォオオオオオォォオオォッ!

苦悶の声を上げ悲痛にゆがむ女王の顔に、千歳は素早く斬撃をお見舞いする。氷の女王――プリティヴィ・マータはさらにその彫刻のような顔を歪ませ苦しそうに呻いた。

「こっちだ!」

シノブが大声で注意をひきつけるように叫ぶと、プリティヴィ・マータは思惑通りに振り返る。シノブが大図書館の奥にかけていくと、すっかり激昂した女王は冷静さを欠いて後を追っていった。その少し後に千歳が続く。退路を断てるよう、女王が通過した後の細い通路にホールドトラップを仕掛けてから、奥で女王と単騎戦闘をするシノブに加勢する。

「ノブ、退路はバッチリや。ここで仕留めるで!」

「分かった!」

千歳の言葉で安心したように、シノブはうっすらと笑みを浮かべる。狭い図書館という名の檻に閉じ込められた女王は、狂ったように猛攻を繰り返す。二人の神機使いは獲物の攻撃を見極めつつ、隙をついて斬撃を、突きを女王に叩き込んでいく。しかし、素早い女王の動きに徐々に翻弄され、スタミナがどんどん削られていく。

「……っはあ、はあ」

息が上がり始めた様子のシノブに、射撃を行っていた千歳は声をかける。

「ノブ、無理はせんといてな。こっちで引きつけておくで」

「問題な、い……ッ!イタッ」

女王の爪が頬を掠める。赤い線が刻まれたかと思うとそこから鮮血がトロリと滴る。

「皮を一枚持ってかれたみたいだな?」

笑って見せるも、その顔には余裕がない。千歳もキッと眼前の女王を睨み付けた。

「顔は女の命や。そないなことするなんて……許せへん」

猛攻で筋肉繊維の結合が弱り、女王の胴体が結合破壊を起こす。綺麗な女神のような顔も猛攻により破壊され、見るも悍ましい表情をしている。

「あとちょっとや、もうちょっと耐えれば――」

「そうだな、とっとと倒してあいつらのけんかの仲裁をしなきゃならないからな」

二人の神機使いは己の神機と制約を交わす。獲物を更に痛めつける。捕食をする。連撃を叩き込む。制約を課し終えると、制約を遂行すべく先にも増して女王に猛攻を仕掛ける。そして数十秒後、神機との約束を叶えその力を解き放った。

「いくぞっ!」
「いくで!」

黄金と漆黒のエネルギーが二人を包み込む。背中に収斂したそれはまるで翼のような形状をしていた。目にもとまらぬ速さで仕掛けられる連撃に、女王は目を開けることも許されない。二人の神機使いによって蹂躙されるがまま、女王はその生命活動を終えた。

「ふぅ。まあこんなもんやなぁ」

神機でコアを摘出しつつ、千歳が息を吐く。シノブも頷いて、オペレーターに連絡を入れた。すると、返ってきた返事は彼女の想像を裏切るものであった。



「ちょっと待ちなさいってば!」

飛翔する堕天使の瞳を切り裂きながら、フィルネは前方で獲物にとどめを刺しているセシルに向かって叫ぶ。断末魔の叫びをあげて息絶える堕天使の血を振り払うかのように剣を振ると、セシルはフィルネに向かって返事をした。

「俺は二体沈めたが、お前はまだ一匹もいないのか?」

挑発するかのようにセシルは笑う。

「元はと言えば誰の所為よ!取り敢えずこいつらはあっちに行かせないわよ!」

フィルネは怒りの矛先をうまく堕天使に向けると銃形態に素早く切り替え銃弾を叩き込む。セシルはその様子を見ると満足したような笑みを浮かべ、我が物顔で戦場を闊歩するオウガテイルに斬りかかった。

五分ほどすると、その場に小型アラガミノ姿は無くなり、残された遺体は黒い靄となり霧散していった。ふう、と一息つくフィルネの肩に、セシルはポンと手を置く。

「……何よ」

不機嫌そうに答える彼女に、セシルはニッコリ笑顔で尋ねる。

「で、何体?」

「……ザイゴートは二体、オウガテイルが一体の、ヴァジュラテイルは三体」

ブスッとした顔で答えるフィルネに、セシルは目を丸くしていった。

「――マジか。俺ザイゴート二体、オウガテイル三体、ヴァジュラテイルは一体だわ」

自分が勝つとでも思っていたのだろうか、セシルは心底驚いたような表情をしている。フィルネはその顔を見やるとにやりと笑みを浮かべた。

「あらあらぁ?王子様ってばオウガ姫とのダンスに夢中で強敵には気付かなかったのかしら?」

笑みを浮かべながら詰め寄るフィルネ。セシルはぎこちなく笑いながら後ずさるのみだ。更に詰め寄ろうとしたその時――オペレーターから通信が入った。

『――フィルネさん!セシルさん!聞こえますか!?』

無線越しのヒバリの声は、どこか緊迫した様子だった。二人は顔を見合わせると、直ぐに彼女に尋ねる。

「聞こえてるわ。どうしたの?」

『それが、サテライト拠点の下見に向かっていた方々が移動中にキュウビに襲われたという連絡が入って――』

「それで比較的近くにいた俺らに連絡を入れた感じか」

セシルが言うと、ヒバリは肯定する。セシルはフィルネに視線を移すと、おどけた様に言った。

「フィルネ、まだまだ暴れたりないよな?」

その言葉に、むっとフィルネは眉間に皺を寄せる。

「暴れるって何よ!でも、そうね……小型だけじゃイマイチ手ごたえは感じないわね?」
その言葉を待っていた、と言わんばかりにセシルは口角を上げる。

「奇遇だな、俺ももうちょっと骨のあるやつと戦いたいと思ってたんだ」

二人は頷くと、ヒバリにヘリコプターを手配するよう依頼する。ヒバリは手際よく近くのヘリコプターに連絡を入れることが出来たらしく程無くして到着した。

「千歳と男女に伝えておいてくれ。俺とフィルネは延長戦してくるって」

『――はい、承知しました!』

セシルとフィルネはヘリコプターに乗り込み、新たな戦場へ向かう。セシルの伝言が、思わぬ疑いを生むとは知らずに――



「えええ、延長戦!?!?」
「ちょっ、ノブぅ……流石にそういう意味ではないと思うんやけど……」
「え、いや、嘘そんなサナエが言ってた意味だとえっとその」
「ノブ〜……落ち着いてくれな?」

セシルは帰投後、シノブに黙って右ストレートをお見舞いしたようだ。


――――――

和水様宅より千歳ちゃんとフィルネちゃんをお借りしました。
生粋の関東民なので関西弁に気を使いつつ書きましたが違っていたら申し訳ございません;;
和水様のお話の続きとなっておりまして、前回書いていただきましたセシルとフィルネちゃんの関係を踏襲させていただいております。
二人の掛け合いを書くのは勿論のこと、千歳ちゃんとシノブの共闘シーンも書くのがとても楽しかったです。
何気にマータさんを倒す描写は今まで書いたことが無かったような気がしますww
だいぶ長文になってしまいましたが、書いている際は和水様のお子さんが生き生きと動いているイメージが出来たためすんなり仕上げることが出来安心しました。
和水様、素敵な作品と共に利用許可ありがとうございました!
和水様のみお持ち帰り可能です。


追記より感想です。



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