小話
 2009.07.02 Thu

先日の日記でほざいていた「ちょっとずるい泉さん」というものについて考えてみました。発想の幅をひろげたいんです的な感じで。


で、以前メインの方に載せた「背反潜水」というタイトルの話を泉さん視点で考えてみたらなかなか姑息な泉さんになってくれました。
さくっと落書き感覚で書いたものなのでメインにのせるようなものじゃないかな、と。いや、基本的にメインでも好き勝手やらせてもらってるんですけどね。

あんまり今のサイトの雰囲気に合わない感じだし、でもせっかくなので日記に置いてみることにしました。
なので「暇で暇でたまらん」という方は、どうぞお暇つぶしにスクロールして見て下さい。
先にメインの方の「背反潜水」という話からご覧になった方がわかりやすいかと存じます。


注意としてはあんまり健全な関係じゃないです。
そして地味に暗いです。
ついでに当たり前のように中途半端に終わります。オチなんてないです。ほんとに落書き程度なので。

以上の点が気にならない方はこのまま下へどうぞー。









「おかしい」という自覚はあった。
「おかしい」と自覚しながらも、ずっと好きだった。多分これはどうしようもないことなのだと自分に言い聞かせていた。
それでいて何をするでもなく、ただ昔から変わらず浜田の側にいるだけだった。

そんな日々の中、高校一年の冬の終わりに転機があった。何も変わらない振りを装いながらもその実質、大きく浜田との関係が一変した。有り得ない繋がりがオレと浜田の間に生まれた。
その関係は「ただの興味と欲求の共有で、児戯と自慰の延長」として認識させ、またオレ自身もそう思い込んだ。
もうおかしくてもいいと思った。マイノリティで何が悪いというのだ。だって個性の時代なんだろう。まんまとのせられるのも馬鹿げているが、メディアは口を揃えてそう訴えてくるじゃないか。





肩が妙に冷えるのは二月真っ只中の気温のせいでもあり、ろくな暖房設備のないこの部屋のせいでもあり、呆けっとしたまま未だ服を着ていない自分自身のせいだ。

不毛って、こういう気分を言うものなのだろうか。
頭に浮かんだ言葉をそのままほったらかして布団の中で横になったまま、身支度をしている浜田を横目で見ていた。
小学生の頃から知っているそいつの体つきは、もう全くあの頃とは変わっていた。
子供のころから一度として背が並んだことはなかったけれど、今では簡単には追いつけそうに無い程高く高く伸びてしまった。中学に入った頃にはひょろっとしていた体に筋肉が付き始め、肩幅が完全に大人のそれになっていたことに驚いたものだ。
「おかしい」と思いながらもその男に惚れてしまったのは、なりゆきだったとも思えるし、必然だったとも思える。

ジーンズのポケットに財布を押し込みながら、浜田は此方を向いた。
「早く服着ねえと風邪ひくぞ」
「ああ」
「オレもうバイト行くけど、お前どうする?」
「ん、家帰るわ」
「そう?別に寝ててもいいぞ」
「いや、帰るし」
毛布を引っ張り上げながら、ベッドの上で半身を起こす。
「じゃあ鍵、下のポストに入れといて」
浜田はなんだかよくわからないキーホルダーのついた鍵をベッドに放り、「風呂使っていいからな」と言い残すとアパートを出ていった。
部屋に残されたあと、枕の横に落ちた鍵を拾い上げる。暫く指で弄くったそれを手にしたまま、もう一度あお向けに倒れこんだ。
鍵を顔の前に掲げ、「不毛、ねえ」と一人ごちる。

この関係の言いだしっぺは自分なのだし、文句をつける筋合いは無い。まして、寂しいなんて感じる方が間違っていると思う。
それでも不毛だと感じる自分を、心底下らないと思う。
「バカバカしい」
主の居なくなった部屋で呟き、鍵を床に放り出した。

浜田は一人で居る事が嫌いな種類の人間だから、近くに居てくれる人間は無条件で迎え入れる。友達連中とはマメに気さくに付き合ったし、好意を寄せる女子は受け入れる。後者はトラブルも多いようだけど、殆どのそれに付き合いきれない女子は自分から離れて行ったし、浜田も後を追うようなことはしなかった。
自分のしていることは、浜田のそんな性格につけ込んだあまりフェアでないやりかただった。
極端に「ひとり」を嫌う浜田の、都合のいい相手に自ら名乗り出た。それだけだった。

自分のしていることの異様性は嫌と言うほど理解していたし、始めの頃は浜田もどこか困惑しているようだったけれど「ただの欲求と興味の共有だ」と説明することで納得したようだった。
だから相変わらず浜田の周囲に他の誰かの気配はあったけれど、それを咎める気は全く無かった。「自分は愛して欲しい女ではなく、ただ遊びに付き合っているだけの友人だ」と浜田に言ってきた意味がなくなるし、それくらいの事で浜田の側を離れる方が嫌だった。
この関係が始まる前から、オレには野球があった。浜田より優先すべき大事な目標がある中で、オレの方だけが浜田に最優先を乞うなんてできるわけもない。要するにお互い様だ。

何よりお互い特別な関係になったとしたら、その破綻が恐ろしい。だったら共通の遊びを抱えたままの友人の方が、破綻の危険は少ないと思ったのだ。我ながら反吐がでそうな程姑息なやりかただと思う。
遠くない未来に浜田に特定の相手ができたその時は、「へえ」と笑って以前のような健全な関係に戻ればいい。実際心穏やかではいられないだろうが、笑ってみせてやる。

自分からこれ以上は動かない。浜田の近くには居られるが、それ以上の距離は変えない。
それでいいと思っていたが、それを不毛だと感じ出した自分に嫌気が差す。
身体に触れる時の、浜田の手や体温を時折恋しく思う自分にも嫌気が差す。
それにしたって自分からこの位置を手放す気にはなれないのだから、やはり不毛だ。

ぐだぐだ考えながらも風呂に向かおうと一度起き上がったが、身体が酷く重い。なんだか疲れて立ち上がる気になれない。
そういえば数日こんなことを考えてばかりで、十分に寝ていなかった。異様な関係をずるずると続けていると、余計な事ばかりに気が回ってしまう。今まで忙しさや浜田以外での充実感にかまけて深く考えずに「これでいい」と思えてきた事も、「本当に?」と自問する時間が増えてしまう。仕方なくまた横になって、一時間だけ眠ることにする。

完全に眠りに落ちる前に、一番最初に浜田と今の関係になった夜を思い出した。
ことの間、浜田は何度も何度も謝っていた。「ごめんな」と。
初めての慣れない行為より、そっちの方がなんだか余程辛かった。

いっそなにもかもぶちまけて潔く壊してしまえばいいのだろうけれど、その先に待つ出来事を受容出来る程、オレは大人には成りきれない。
あと数年後に大人になった自分は、今のオレを嘲るのかはたまた後悔に駆られるのか。それともこれで良かったのだと肯定するのだろうか。
いずれにせよ、今のオレの預かり知る所ではない。







[*前へ]  [#次へ]



戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
あきゅろす。
リゼ