「秋山知美さんですよね。今日は見学ありがとうございます」


1年の私に対しての丁寧な言葉遣いに、ビックリしてしまった。

はうあっ!

私は座っていた長イスからスッ転び、落ちた。


「部長が不在なので代わりに説明させていただきます、副部長の真島麻妃です」


あさひさんだって。珍しい名前だなぁ。それにしても、ちょー美人…。


「よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


私がお辞儀すると、麻妃さんは柔らかく微笑んでくれた。


「正直なことを話してもいいですか?」


唐突な話の前触れに私は緊張した。

私何かしたっけ?!スカート丈、短い?!違反の髪型してる?!髪の毛の色かッ?!

お前調子込むなよ、とか言われる?!

麻妃さんの口から出てくる言葉に身構えた。


「マネージャーになってくれませんか?」

「へ?」


私の考えている事とは全然違う言葉が来た。


「あのですね、今マネージャーがとっても欲しいんですよ」

「はぁ……」

「今の3年1人しかいなくて。2年に引っかかってくれる子もいなくて。今年も不作で……」


ふぅと溜息をつく麻妃さん。そんな姿も絵になりますよ。


「あ、初対面なのに愚痴を言ってしまってすみませんね。さて、水泳部をさくっと説明しましょう」


横に置いてあったぶ厚いファイルから数枚の紙を渡してくれた。


「一枚目が去年の成績です。神奈川制覇をして、全国制覇もしました。」


うわぁお。すっごい成績じゃん!何じゃこりゃ……


「当時部長だった神代光さんは、今日本シンクロ界の方で活躍されている方です。テレビか何かで見たことはありませんか?」


もちろん知ってます。テレビっ子の私が知らないはずが無い。だって、この人、もうありえないくらい綺麗なんだもん。

一枚写真を渡された。皆笑顔で、これ以上に無いほど笑顔で。真ん中で涙を頬に流しながら笑っているのが神代光さんなのだろう。何となく、誰かに似ている。


「ちなみに、現部長のお姉さんですよ」

「あ、だから何となく似てるなって思いました」

「でしょう?」

「でも光さんはシンクロですよね?水泳じゃないんですか?」

「えぇ。水泳と呼ばれるジャンルに数種類種目があります。私達の部活は主に競泳。その他にシンクロ、水球、あと飛び込みがあります。薊浦には全て部活としてあります。ただ、メインは競泳になっていますけどね」


なんか私、とっても凄い私立に入学しちゃったみたいですよ。


「で、その次の紙が……」


私は二枚目を見た。


「今年の成績ですね。まだ県大会のものしかありませんけど」


表彰式なんて代表で一気にやっちゃうから、どんな成績を残してるなんて全然知らなくて。

誰が何位に入賞とか。


「あ、秋山だ」


輝かしい成績が書かれた紙の上に、『秋山紘平』の名前を見つけた。

でも、2位だった。

「2、位なんですね」

「あぁ。紘平ですか?1位は我が部の部長ですから」

「本当だ」


秋山の名前の上には、『神代陽』と書かれていた。


「専門種目が陽と紘平は同じなので、だいたい紘平の順位は陽に次いだものになっていますね」


そりゃ、オリンピック強化選手だもんねぇ…


「でも陽が引退した後、彼がフリーでの高校生チャンピオンでしょうね」


私、もの凄い人の後ろに座ってるんだ…

恐ろしい……

 
 




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