コンビニから帰ってきて、カチャ、と少し音のする部屋のドアを開ける。当然中は無人で誰も居ない、…だった筈だ。
「…なんでいるの、」
「えー? ここが啓吾の部屋だから?」
…それ、答えになって無いから。
「何しに来たの、」
「暇だったからー」
俺のベットで寝転がりながら呑気に俺の雑誌を読み漁っているのは隣の部屋に住んでる榎木なつみ。え、ちょっと待って。俺ちゃんと鍵閉めて家出た筈なんだけど。何でこの子は俺のベットで寝てんの?
「俺鍵閉めた筈だよね」
「うん、ちょーっと安全ピンでいじったら簡単に開いたよ? セキュリティは常に万全にしなきゃね!」
「そうだね、なつみみたいな人がいつ来るか分からないもんね」
「うわっなんか今日毒舌だねえ……あ、コンビニ行ってたの? 私プリン食べたいんだけどなー」
ねえ、なんなのこの子。いつも我儘だけど今日はちょっと我儘の度合いがすごいんですけど。「はあ?」なんて言いながらも袋に入ってるプリンとスプーンを差し出すあたり、俺ってすごい優しい奴なんじゃないかと思う。
…これは有る意味惚れた弱み、ってやつなんだろうけど。
「ふふ、啓吾ありがと」
「どーいたしまして」
生クリームが上に乗っかった甘ったるいカスタードプリンを口に頬張り、「んまーいっ」と歓喜の声を上げるなつみを見て、思わず顔が苦笑いになるのが分かる。
まったく、何でこんな我儘な奴に惚れたんだか。
「ねえ啓吾ー」
「んー?」
「そのコンビニの袋、あと何入ってんの?」
その質問に、俺は「どーぞ」と言ってコンビニの袋を躊躇いも無く差し出した。なつみは「どーも」と言って受け取り、がさがさとその袋の中を漁りだした。
…言っておくけど、俺は今日なつみに見られて困るようなもんは買ってない。……今日、は。
「あ、キャラメルメロンパンあるっ!! 食べていい?」
いーよ、と言う前になつみはその袋を破った。人の話は最後まで聞こうね、って教えはなつみの中では通用しないらしい。前に、「なつみは人の話最後まで聞かないよな」って言ったらなつみは不思議顔で「それが普通じゃないの?」と言ってきた。 うん、そう考えるのはきっと世界中でなつみだけだと思うよ。
なつみはもぐもぐと俺の明日の朝食になる予定だったキャラメルメロンパンを頬張っていた。うーん、明日の朝ごはん、どうしよう。
それにしても、なつみっていっつも甘いもんばっかり食べてるよな。太んないわけ?
「なつみ、」
「んー?」
「そんなに甘いものばっかりだったら、太るよ?」
瞬間、なつみはびくっと肩を揺らして手にパンを持ったまま固まった。どうやら、俺の一言でけっこうぐっさりいったらしい。でもそれもすぐに収まって、俺のほうを見ながらなつみはにっこり笑った。
「大丈夫だよ、」
「なんで?」
「だって啓吾は私のダイエット協力してくれるじゃん」
…彼女のなかで、ダイエットする際には俺の手助けが無いと成り立たないらしい。
なんか本格的に俺なつみの我儘付き合ってあげてる気がするんだけど………気のせいにしとこうか。
「だからね、とりあえず今は甘いのいっぱい食べる!!」
「あ、そう」
「…っ、なんでそんな笑ってんの!?」
「いや、べつに?」
「…、……ほら! 啓吾も食べるの!」
「くくっ……、しょうがないなあ。 …―――、…」
不機嫌そうに俺を睨むなつみの耳元で優しく囁いたら、案の定なつみは顔を真っ赤に染めて俺の顔を見ないように視線を下にずらした。
「…わかってるなら、…言わないでよ…っ!!」
あまい、あまい。
「…なつみの我儘に付き合えるの、俺くらいだもんねえ?」