『あの、ね……』




俺がアイツと呼ぶのは、元カノのことだ。

俺の人間関係を散々に壊して、浮気して、逃げていった奴。

凄く身勝手で、利己的な女。

世界は自分中心に回ってるって、大逸れた考えを持っていやがる。

俺が付き合った中で一番最悪な女。




だけど、外見は誰にも負けないくらい、俺を魅了した女だったりする。

美意識も、メイクも、ヘアスタイルも、何もかも俺の好みだった。


「んだよ。歯切れ悪ぃな。用件まとまったらまた電話しろよ。じゃ……」


俺が、電源ボタンを押そうとした時。


『アタシ、馬鹿だったの……』


どうせ、こんな展開だよな。


「何でそう思うの?」

『自分しか見えてなくて、孝はただのステータスみたいなものでしか考えてなくて』


へぇ、自己解析出来てんじゃん。


『だけど!本当に気が付いたの!!アタシには孝しか居ないんだって……』

「ふ〜ん……」




『だから、お願い……。アタシとヨリ、戻して』



震えた声が耳に届く。

数分の沈黙が流れる。


「それ、何回言ってきたセリフ?」

『え?』

「どーせ、今お前彼氏居ないんだろ?男引っ掛けるための口説き文句みたいなもんだろ?」


耳には何も聞こえてこない。


「俺の過去、全部チャラに出来るなんて思ってんじゃねーだろうな。お前がしてきた事全部、元に戻せんのか?」


散々な過去だ。思い出したくも無い。


「あんな事までして、よく俺に電話してこれたもんだ。お前の神経の図太さ、見習いたいよ」





『……あっそう。じゃいいや』


ブツッと切れた電話は、アイツの気持ちを代弁してるんだろうか?


どっちにしろ、最低な女だよ。


ソファに深く沈みこんだ。


頭が重い。


最近寝不足だからかな?


ふと視線を上げた先に、ガラスの向こうに街路をポツリと歩く女の子が映った。


制服からして、近所の薊浦か。


もう一度ソファに沈む。


「ん?!」









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