俺のステキな電波さん
2013.04.28
恬→信
人間関係には割と恵まれている方だと思う。そりゃあ、確かにいけすかねえ奴はいるが(例として某ポニーテール)、ずば抜けてヘンな奴はいねえし、…………いねえと思ってたんだけどなあ。
ソイツは、ぱっと見て完璧なように見える。家は金持ち頭もよくて運動神経もよし、女に騒がれる顔立ちおまけに(ナンパな性分もあるが)性格もよし。少女マンガから飛び出してきたかと思わせるその男を、当然の如く女たちは取り合った。時に激しく時に陰険に並みいるライバルを蹴落とし出し抜き、そしてやられる前にやれやられたらやり返せ。日常的に行われる熾烈な争いに、世紀末の救世主が間違って現れてしまいそうな気がする。
でもなにが一番恐ろしいかってーとこれが全てその男に決して悟られぬように水面下で行われていることだ。…救世主も逃げ出したくなるだろうぜ。
俺より一年だけ先輩のソイツとは、ひょんなことから知り合った。いや、ただ、体育祭の騎馬戦で同じチームに振り分けられただけなんだが。俺の無鉄砲で猪突猛進な性格(みんなから何故かそう言われる)と、アイツのバランスを取って、必要な時にはストッパーになれる性格は相性が良かったんだろう。そこから馬が合い(騎馬戦だけに)、俺たちは先輩後輩の垣根を越えて、互いの家を行き来するようになるまで仲良くなった。なったところからが問題だった。
「お前さあ、誰か好きなやつとかいるの?」
放課後、人気のない帰り道でのことだ。俺は気になっていたことを思い切って聞いてみた。
「えー、なんで」
「だってお前、分かってんだろ」
分かっている、とはコイツに想いを寄せる女子達のことだ。あれに気付かないなんてどんな鈍感野郎だ、と思っていたが周りをよく見ている、聡いこの男があんな分かりやすいものに気付かないわけなかった。
俺は、返答をじっと待った。もしこの男が、蒙恬が、女子達を蔑ろにするようなことを言ったら、友人として最悪殴ってやるぐらいの気持ちを持っていた。
「信はさあ、…生まれ変わりとか、運命とか、信じる?」
「はっ??」
返答は斜め上のものだった。
呆気にとられて俺は蒙恬をガン見した。多分、随分マヌケな顔を晒していただろう。どうしてこんな展開になった。俺を無視して蒙恬は続ける。
「俺はそういうの、あんまり信じてなかったんだけど、最近、信じてる。というか、信じざるを得ない出来事があったんだよ」
「…俺に前世の記憶があるって言ったら、どうする?」
どうするも何も「あ、コイツ患ってる」って思うだけだぞ。
さすがに中二病全開の話をするのは抵抗があるのか、蒙恬は回りくどく長々と事の顛末を話し出した。時折信憑性を深めるためか詳しく当時の話をしたが、当然俺はそんなもん分からなかったので適当に相槌をうっていた。その回りくどくて長い長い話を、かいつまむとこういう話だった。
昔、つまり前の蒙恬には恋人がいた。しかし、身分の違いや男同士という点から、ずっと二人でいることは出来なかった。二人は少しずつ、距離を置くようになった。その後、時代が時代だったため恋人は死に、自分も奸計に嵌められ死んでしまった。だが蒙恬は最後まで、その恋人が好きだった。
そんな夢を幼い頃から何度もみてきた蒙恬は、その内容が真実味に迫っていたこと、史実と照らし合わせてみた結果から、自分の前世かもしれない、と思うようになった。だが、いまいちそれを信じきることが出来なかった。
そんなある日、蒙恬はある人と出会った。
「俺、信が好きだよ」
一瞬、世界が遠のくように感じたそうだ。夢の中の恋人そのままの姿。声。仕草。…俺だった。
「…お前、ホモなのかよ」
「はは、ずっと一人の人を好きならホモじゃないんですって、信くん」
「んな屁理屈聞いてんじゃねえよ。…お前はその、記憶に引きずられてるだけじゃねえの」
蒙恬は、確信した。
これは本当にあった出来事だったと。
自分の記憶だったと。
「影響がなかったとは言えない。…でも、俺は、ちゃんとお前のことを知ったうえで、お前を好きになったよ」
そしてもう一度出会ったからこそ、そういうものだとも思った。
「…人違いだ」
…運命だ。
「俺が信を間違えるわけないよ」
「好きなんだから」
蒙恬は、全てを信じた。
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