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 2013.04.10
 
 

恬信

!季節が一巡した時とめの続き


やっとの思いで手に入れた中古車に、若葉マークのシールをペタリ、貼り付けた。

「あー、やっぱ不安になってきたなー。信の運転」

「大丈夫だって言ってんだろ。ちゃんと免許取れたんだからよ」

「だってアクセルとブレーキ踏み間違えかねないし。夜でもめっちゃスピード出しそうだし」

「うるせえな、しねえよ、バカ。」

ううん、と唸りながら喋る蒙恬の、本気とも取れぬ冗談に憤慨しながら、信は続ける。

「大体、お前が言い出したことなんだからな」



事の発端は、二人でニュースを見ているときに、蒙恬が言った一言だった。

「桜見に行きたい」


「は?」

「いやだから桜」

「それぐらい分かるわ!なんだよ、突然」

信に訊ねられると、手を組んだりして落ち着かない様子で、蒙恬は切り出した。

「いや、ちょうど一年だし、記念にさあ」

ああ、と信は納得いった様子で頷いた。「…もうそんなに経つんだな」あの日も桜が咲いていた。初めて理由なく、手を繋いだ日。もう何年も前のように感じるのは、今日までいろんな事がありすぎたせいだろうか。

「…お前、ほんとにヘタレだったよな」

「うっ、いやだって…つか、なんで信気付いたの」

「分かりやすかったから」

「うそ!」

大声を出して蒙恬が勢いよく立ち上がる。その反動で、危うくテーブルの上のコップが倒れかけたが、信がなんなくキャッチした。

「あっぶね、…腹ん中見せねえようで、結構分かりやすいんだよ、お前」

呆気にとられて間抜けな顔を晒していることで笑われていることに気付くと、蒙恬は手で口を押さえ、しかめっ面をした。

「…ずるいよ」

「俺としてはお前にそれを言いたいけどな」

蒙恬と同じ顔で信は唇を尖らせた。付き合いたては奥手だったのに、この頃は主導権を取られてばかりだ。調子に乗んな、と信がぼやく。

「…まあ、俺も成長したんだよ」

憎まれ口を叩く信の扱いも慣れたもので、特に気にした様子もなく信の隣に腰掛ける。視線がかち合うと、どちらともなく顔を寄せた。十数秒経ってほんの少しだけ離れても、信がまだだと言うように寄る。けれど唇は合わせなかった。ただ、鼻先を擦り合わせる。

「ね、行こ」

内緒話でもするかのように、小さく、小さく、囁いた。焦点が合わない至近距離でも、目を開けている。

「…でも運転俺なんだろ」

「えへ、お願いします」

蒙恬は免許を取っていないので、取ったのが最近といえども免許持ちである信が運転するのは至極当然の流れだった。年下をアシ代わりに使うなんてとんでもない奴だ、と思ったが、自分も蒙恬を年上として扱っていないのでお互い様であることを悟った。

少し間を空けて、埋め合わせ、と信が呟く。了解のしるしだ。微笑んで何がいいか問うと焼き肉、と返ってきた。蒙恬は快く了承すると、再び唇を寄せる。が、内心では今月懐が厳しくなるなと、サイフの心配をしていた。






「ごめんって、冗談、冗談…でもないけど」

笑いながら謝罪をして、荷物を詰め込む。詰め込む、といっても小さなクーラーボックスに入れた飲み物とか、二人で十分腹を満たせられる量の食べ物だけだ。忘れ物ない?、あっ、レジャーシートってあった方がいいかなあ。いつになくはしゃいでいる様子の蒙恬を珍しく感じて信は見ていた。普段だったら自分が浮かれに浮かれて、その後始末を蒙恬がしていたのだが、今回は逆になりそうだ。まあ、夜桜を見に行くなんて自分はともかく蒙恬も初めてだと言うので、浮かれるのも無理はない。仕度が完了したらしい蒙恬が終わったよ、と声をかけた。

「あとは信の運転だけだね!」

「まだ言うか、それ。…お前がいるのに事故るかってんだ。ちゃんと連れてってやるから安心してろ」

「ふっ、はは、信かっこいー。惚れ直しそう」

軽口を言い合いながら二人して狭い車内に乗り込むと、街灯に照らされた夜の中へと走り出した。






 
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