遠い日の絡まり
 2013.05.28
 
 

恬信

なにがしかの冒頭



何気なく顔を上げる。振り向く。見渡す。するとよく、目が合う人がいる。正確ないつから、は分からないけれど、ここ最近のことではないのは確かだ。同じ学校に通っていること以外、相手のことはなんにも分からない。名前もクラスも学年も、蒙恬は知らない。だけど彼のそばには人が絶えなくて、笑い声に溢れていたから、もし知り合えたら楽しそうだ、と勝手に思っていた。



「(またうどん食べてる)」

学校の食堂で、Aランチを食べていた蒙恬は、テーブルを三つ挟んだ向こうに、いつもの彼を見つけた。今日は珍しく彼一人で食べていて、周りが静かなことに違和感を覚える。

「(うどん、好きなのかな)」

「(それとも、一番安いから食べてるだけ?)」

「(…気になるなあ。少し、だけど)」

間のテーブルの席についている人が、うまい具合に蒙恬を隠してくれていることをいいことに、遠慮なくじっと見つめる。

「気付いちゃったりするかな」

小さな声は周りの賑やかさにすぐ埋もれて消えた。
気付かれればいい、なんてそんなことを思っているわけではない。むしろ逆だった。よく目が合って、たまにそっと見ているこの時間が、まるで恋をしているかのようで、蒙恬は気に入っていた。





 
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