春告げ鳥
生と陽の香りに満ちるひかりの下、地に立てられた朱塗りの墓標。
其れは散らぬ花のようにただ身を埋めていた。
武を奮い、肉を断つ筈の鉄は、肩口を撫でる花吹雪と妙に馴染んだ。持ち主が戦と縁遠かった事もあるのだろう。
緩く首を傾ぎ、息を吐く。
鳥の声が遠い。
墓を参るからにはあれの事を思い返してやるべきかと記憶を手繰るが、さて、浮かぶのは笑んだ姿ばかりである。
大きな背を丸め、中身の無い荷を引き摺り、何処か幼いままに死んで行ったいびつな男。
手にした飾り羽根からは気配すら色褪せ、ただ静かに手の中に在った。
「…儚いものだ」
物言わぬ欠片には興味も無い。ゆるりと放てば、風を舞い背の向こうにかさりと落ちる音。
深く埋められた抜け殻、示す標。
鳥の羽根。
いずれ皆同じ様に朽ち、酸雨にさらされ忘れ去られてゆくのだろう。
「これは卿に返しておくよ。叶わなかった望みも今ならば運べよう。…縛られぬまま、何処へなりと、行くと良い」
土に食まれた骨の身には最早背負う荷も無いのだから。
鳥が、足音を追い縋るようにちちち、と鳴いた。
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前田慶次の墓参り、をするあのひと。手のひらの羽根ひとつを贈って去っていく。
ある方が描かれた松慶が素敵だったので少し情景を想像してみたもの。ついったーから再録。
10.07.18 (ログup)
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