髪を切る
むきだしの足の上に髪が落ちる。
しゃきん、と小気味よい音を立てる、よく研がれた鋏はあのひとに買い与えられたものだ。
あのひとに貰ったもので、あのひとの執着を切り落とす。
頭が軽くなる毎に自由になる気がした。
低い声とかたい指先に幾度も掬われた、手垢だらけの髪は重いのだ。とても。
俺はあのひとが俺を見なければいいと思っている。
鋏を動かす手は止めない。
俺を見ればいいとも、思っている。
綺麗だと唯一褒められた俺の一部は重なって、重なって、足首まで隠れるくらいに積もる。
鏡なんて見てないから、きっと長さもばらばらで、ちっともきれいなんかじゃない。
髪を結わえていた組み紐がすべり落ちる。(結べないなら、これもいらないなあ)
亜麻色の髪に似合いだと言って、くれたものだったけれど。
しゃきん。
赤い紐を、銀の刃が裂いた。
-----------------------------------
拍手ログ。髪を切る理由。
10/01.11(02.03加筆)
戻る