アンダー・プレッシャー



「何度やらせても卿には上達が感じられないが、」
手乗りの鳥の方が、余程物覚えが良いんじゃないかね。

そう言って薄く笑う気配。
何か言い返したいけれど、その人の欲望を押しこまれて声を発することはかなわなかった。
いっそ噛みついてやろうか、思って、「歯をたてるな」と先を越される。

髪を引かれ、促されるまま足の間に顔を埋める。鈍く芯を持ったそれの根元から窪みまでをたどり、両の手で包み込む。
ゆるゆると扱く動作がぎこちない自覚はある。

この人にさわるのは何時までたっても慣れない。
慶次の方は少し触れられただけで火が付くくらいなのに、おかしいことだ。

(…頭に火薬でも仕込まれてたりして)
想像してみるとそれは意外としっくりきた。このひとに抱かれるのはいつもいつも苦しくて息が詰まるようで、それ以上にどうにかなりそうな程熱い。

「っ、あ」
自分の太腿をはしたなく濡らす先走りが膝裏に伝う。追い上げているのはこちらの方なのに、余裕なんかなかった。

先端の張ったところをきつく吸い上げると、上から詰めた息が落ちる。
はやく、はやく、必死に舌を這わせた。時折漏れてしまう鼻にかかった声は、媚びてるみたいで好きじゃない。でも慶次の嫌う大体のことはこのひとを喜ばせた。
口内におさまりきらない高ぶりが一層大きさを増す。

「ふ、……んん、んっ!」
「飲みなさい」

喉の奥を容赦なく叩きつける体液を反射的に吐き出してしまいそうになるけれど、素早く口を塞いだ手がそれを許さない。息が出来ない。鼻も一緒に塞がれているからだ。本当に、酷い。

「飲みなさい、と言っただろう」
意地悪く口角を上げて、繰り返す。欲の滲んだ声には、ささやかな反抗なんかまるで意味がない。
咳こみながらなんとか飲み下すと、いい子だ、と撫でてくれる。かわいた指がひんやりして気持ちいい。
本当はこのひとの手はあたたかくもつめたくもないから、こっちの方がずっと熱いんだろう。
温度が同じなら、愛されている錯覚にとらわれていられるのに。

「俺、…あんただけは、どうしても嫌い」
「悲しいな。これでも私は卿を気に入っているのだがね」

解いた髪の頂から、頭の形をゆっくりとなぞる動作は迷いなく、しかし何の情も持たない。あるとしてもそれは犬猫に与えるようなものに過ぎない。

慶次は犬でも猫でもなかったから、この酷いひとに素直に縋ることもできず、これから体の奥を探られるのをただ受け入れるだけだ。

向けるこころの全てがゆるやかな重圧に押しつぶされてしまう、こんなかなしいことはないと思った。





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好きか嫌いかなら嫌いじゃないけど、愛してくれる訳じゃない。

09/12.23

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