リトルダンサー



「大丈夫だ忠勝、すぐに直してやる!」
(お体に障ります、どうか少しでもお休み下さい)

「なあに、わしの事なら心配するな。この通り怪我ひとつねえ。何しろ、戦国最強が守ってくれたのだからな」

こちらの無言の訴えを一切無視して、慣れた手つきで螺子を回す。声こそ明るいものの、その顔に滲む疲労の色は明らかだ。


先の戦で、徳川は捨て石の役を担わされた。
来るはずの援軍は無く、後方には大挙する軍勢。謀られた、と退却を指示したが時遅く、三河の兵にもいくらか被害が出てしまった。
忠勝が負傷したのはほとんど生身ではない左腕と脚部の装甲の一部だから、自身の命に関わることではない。


「…すまねえ」
(竹千代様、)
震える謝罪とともにぱたぱたと落ちてくる雫を、軋んで言うことを聞かない関節を無理に曲げ、拭う。油と鉄錆にまみれた手で主君に触れるのは躊躇われたが、自分などのためにこれ以上泣かせたくはなかった。

「…わしが不甲斐ないせいで、おめえはどんどん人から遠くなってしまう」
(いいえ、貴方のために厭うことなど何もありはしない)

大方の意志は主君が汲み取ってくれるので不自由したことは無いが、こんな時ばかりは声を発せぬこの身をもどかしく思う。

腕にしがみつき背を丸める姿はまるで幼子のようだ。この方の御身は、国を背負うにはあまりに小さい。



三河の化け物、鉄鬼の兵よ、とはばからず聞かされる醜聞などどうでも良い。
恐れるならもっと恐れれば良い。

これが自分の誇りだ。

ただ主に過ぎたるもの、と呼ばれることだけが悔しい。
天下の広き舞台では、埋もれてしまう踊り手のひとりに過ぎないのかもしれない。けれど我が君の手には光がある。
今は小さくとも、機が来ればその光が眩いことに皆気づくだろう。
過ぎたるのは主の方だったと。

「わしは絶対に諦めねえぞ。天下を……三河の民や、お前のためにも」

言葉を返すことは出来ないから、せめて武を持って返そう。
この体、この槍、この魂の一片までも、あなた様を守るための盾。


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09/12.26


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