恋の魔法
おんなのこは恋すると魔法使いになれるんだよ。
ケーキがいつもよりずっとおいしいのも、今日天気がいいのも、恋をしてるから。
「くだらないな、」
「あ、ひどい!ほんとなのに!」
濃灰色のコートを着た背の高い男が半歩ほど前をまっすぐ歩いている。慶次はこのひとの、一片の隙もない立ち姿がとても好きだ。
「…そんなことより、私とばかり遊んでいていいのかね。クリスマスは友達と過ごすのだろう」
「うん、誘われた。でも松永さんのお嫁さんになるから、そういうのはいいんだ」
男は少し意外そうに眉を上げて、それから口角を上げてゆったりと笑う。
「随分可愛らしいことを言ってくれるが、君がもっと世の中を知れば、その気持ちも変わると思うがね」
「そんなことない、ずっと好きだよ、だって」
…だって、慶次はこのひとに全身で恋をしている。
頭をなでるのも、手をつなぐのも、このひとにされるのは特別にすてきだ。
たまにしてくれるキスなんて、胸の中がきらきらして、頭がふわふわしてなんだかたまらなくなってしまう。
素直にそれを言ったら、もっと先を覚えたら君は溶けてしまいそうだな、と笑われた。
(とけちゃうくらいって、どんなだろう)
あれこれ考えていたら、前を歩く年上の恋人と、ずいぶん距離が離れてしまっているのに気付く。
歩幅が倍は違うから、気を抜くと慶次は置いて行かれてしまう。踵が高い靴を履いてきたから目線の高さはいつもより近いかわりに、歩きにくくていけない。
「慶次、早くしなさい」
「ごめんなさい、今行く!」
そうだ、手をつなぎたい、と、言ってみようか。
普段は身長が足りなくて、腕が疲れてしまうけど、今日なら。
期待に息を切らせて追いついた慶次に差し出される、黒い革手袋を嵌めたてのひら。
「…すごい、手つないでほしいってなんでわかったの?」
「さて何故かな。実は私が魔法使いだからかもしれないな」
「じゃあ魔法で大人にして。松永さんと結婚したい」
「10年後も同じ魔法にかかっていたら、考えておくよ」
こんな強い魔法、一生解けないと思ったけど、言ってもまともに聞いてくれないのはわかっていたから、黙って頷いた。
はやく、はやく大人になりたい。
ブーツにヒールがついてなくても、手が繋げるように。
朝の予報を裏切り、魔法にかかったように晴れた冬の空の下、緑色のコートを着た少女と男が並んで歩いていた。
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また甘ったるい感じの拍手ログ。
慶次の年齢は「小さい子ども」ってだけであまり考えてません。
どうみても松永さんロリコン。
09/12.08
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