君より早く目が覚めた



「…くしっ」
自分のくしゃみで目が覚めた。陽の光が障子に透ける。起きるにはまだ少し早い。
寝直そう、そう思って布団の感触を探る手に、やわらかいものが当たる。
夢吉ってこんなに大きかったっけ。ぼんやりする頭で思いすぐ違うと気づいた。浅い呼吸の音。重い瞼をやっと開けると、目の前に見えるのは濃灰の絣と、今は目を伏せた夜闇のようなひと。

(…眠ってる顔なんか、初めて見た)
疲れてるのかな。ちょっとは俺に、気を許してくれてるなら嬉しいな。
思うだけなら自由だから、都合の良いように考える。

(寒いなあ、)
起こしてしまうのは勿体なくて、布団は諦めることにした。
かわりにそうっと身体を寄せる。振り払われないのが嬉しくて、ぴたりとくっつけた腕に甘えていたら、あたたかくも冷たくもない手のひらに一度だけ撫でられた。


ああ、この人が起きるまで待っていたい。
でも腕の中は心地良くて、くすぐったくて、慶次はまた眠くなってしまう。


目が覚めた。
外は未だ仄暗く、夜の帳に圧し詰められた空気を吸えば、それはひやりとしていて重かった。
息の詰まる心地だ。


視界の端に広がる栗色の髪をふと認め、その珍しさに久秀は目を見開いた。

これを閨に呼んでも、大抵は与えている部屋へ追いやるか、自ら出て行くかが常だった。自分以外が床に居ることは、久秀の眠りを妨げるものだからだ。
昨晩は少しばかり、酷く扱った。気をやってしまったから、その内目を覚ますだろうとそのまま放っておいたのだ。

深い眠りに沈む頬に触れる。
暖かい、生きた人の身体。久秀の愛でる物たちの静謐さには程遠く、けれど煩わしくは思っていない。
他者を部屋に入れて眠れた事が、それを示していた。
さえずる声は五月蠅いのに、風のように自然にそこにある。不思議な男だと思う。

じわり、こちらの指に熱が移っていくのを感じていると、熱源が身じろいだ。

「……さむ、い…」
身をすり寄せてくる様は犬の仔のようだ。そのまま好きにさせていると、収まりの良い場所を見つけたらしい。
気まぐれに撫でてやれば子供のようにへらりと微笑む。


その無防備さが愚かしく、愛しかった。




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実は松永さんの方が先に起きてました。夜明け前に。そのあと二度寝したけど。

09/12.02


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