その羽根は退化する
「…あ、う、ぁあ…っちょ、嫌だ、やだっ、て、ねえ…っ」
「よくないかね」
「ちが、っはぁ…あ、」
いいから余計困るんだろ。わかっているくせにいちいち訊いてくる意地の悪さに何か言おうとして、けど俺の口から漏れるのは溜息のような音だけだ。
「ひっ、う」
首の付け根を食まれ、ひくりと奥が疼いた、…のも、きっと悟られている。この人はとても鋭い。
「首を噛まれて大人しくなるとは、まるで野の獣だな」
「まつ、ながさん…っ」
猛禽のようなひとみでじっと見られているのも、ゆるゆるとした刺激にももう堪らなくなって、はやく、とその先をねだった。
今日は天を抜けるような青空、外に出るにもうってつけの日だ。なのに、光の届かない襖に囲まれて、優しくないこの人を受け入れている。
(「卿は見られるのが好きなのかね?はしたないことだ、」)
言葉で誘導されて、何度も何度もさわられて、そのうちに慶次の体は反応を変えていく。ひょっとしたら、知らないうちに心だって、このひとの望むようになっているのかもしれない。
(俺のほとんどを松永さんが占めても、俺はひとりで生きていけるのかな)
もしもを想像するのは、少しこわい。
「何を考えてるかは知らないが、少しはこちらに集中してくれないと、…少々傷つくな」
ちっとも傷ついてない顔で言う。
「…あんたとしてて、ふつうじゃ満足できなくなったらどうしよう、って、考えてたよ」
思っていたのと少し違うことを答えた。でもこれも本心だから、嘘はついていない。
「おや、そんなことかね」
「だって松永さん、俺に飽きたら捨てるんだろ」
「そういう風に見えるか」
「見える」
松永さんが、声をあげて笑うのをはじめて見た。
「安心したまえ」
火薬の匂いのするてのひらに頭を撫でられた。俺がそうして欲しかったのを、知っているみたいに。
「君がどこにも飛び立てなくなってしまったら、その時は、」
それから貰った言葉で、俺は完全に俺でなくなってしまった。
(…その時は、私が君を飼ってあげよう)
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松永さんの愛情って伝わりにくいんじゃないかとか。気持ちがなくても必要なら優しくしそうだし。
09/11.28
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