パルフェとスプーン



繊細な銀色が煌めく。細長いスプーンが硝子の器の中でくるりくるり、踊っては白いクリームとを掬っていく。
軽快に響く咀嚼の音。

さくさくさく。さくさくさくさく。

「なあ毛利、」

さくさくさく。かしゃ、さく。

「毛利ー」

さく、かしゃかちゃ、さくさくさくさくさくさくさく。

「元就サーン。…元就ー、……なりちゃーん」
「うるさい妙な名で呼ぶな」
あまりに反応が無いので、ちょっとふざけてみたら勢い良く采配が飛んできた。…今、確実に左目狙ってきたよな。というか、そいつはどっから出したんだ。

「…それ、そんなに美味いか?」

元就の手にしっかり抱えられた硝子の碗には、牛の乳と砂糖を割り氷で固めたものに色とりどりの果物が乗っている。『ぱっふぇ』という南蛮の菓子だ。

「甘味が砂糖の塊だなどとぬかす貴様には到底理解できぬ、繊細な味わいよ」
何故か日輪の方角に向きなおり、元就は目を細めた。
先の航海で南蛮甘味の教本を手に入れたのだと、酒の肴に語ったところ、甘味を好む彼は何やら興味を持ったらしかった。
作れ作れと言われるまま似たものを用意してみたのだが、どうやら気に入ったようだ。

…お宝じゃなかったのは残念だったが、こいつの喜ぶ顔が見られただけでも価値はあったかもな。
いまいち感謝の気持ちが感じられない気もするが、まあいいか。

元親が思考の波に捕らわれている間にも、硝子と銀の当たる音は止まない。



「長曾我部」
「…あ、ああ?なんだ?」
「早う、次の品を持て」
空になった器の縁を示す。

「あんた…ここが四国だってこと、忘れてねえか?」
こちらに見下ろされているのに、いかにも尊大な態度を崩さないのが実に彼らしい。ため息を飲み下し、元親は部下を呼ぶために立ち上がった。




硝子が再び空になる。元親は仕方なく部下を呼ぶ。さくさく。硝子は三度空になろうとしている。

いくらか同じような遣り取りがあって、ついに用意した材料はすべて、安芸の統治者の身におさまってしまった。

「…長曾我部」
「今度はなんだよ」
「我にして欲しいことはあるか」
「…は?」
「貴様に借りを作るのは癪だ」

「俺ァあんた見てるだけで充分楽しませてもらってるぜ?」
特に嬉しそうに食ってる姿なんか、飽きねえしな。

「変わった男よ、我を望む通りにしてもよい、と言っておるのに」
「…………あ」
しまった、と思う。どうせなら膝枕、いや、頬に口付け、とか、何かあったんじゃないのか。ああ、勿体ねえ。折角元就の機嫌が良かったのに。


「……確かに、退屈はせぬな」
頭を抱えながら何事かを呻く紫の背を見つめ、元就はつぶやいた。





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なんでも、って言ってるのに思いつくおねだりがかわいらしい兄貴。

09/11.24

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