深夜二時、独特の匂いに刺激されながら煙草の煙を吐いた
コイツが「眠れないから」とかいう身勝手な理由で快眠している俺をわざわざ叩き起こしたせいで
俺は襲い来る眠気と必死に戦いながら、コイツの夜更かしに付き合わされるはめになる
「動かないでよ」
「……ん、」
コイツが身勝手なのは百も承知で、そんなことはとっくの前から分かっていることなのだが、今は言い返す気にもならない程とにかく眠い、というより言い返すなんて今更だ
俺は机の上に突っ伏して、コイツに引っ張られる右手だけを動かさないよう固定した
「このまま寝ても良い?」
「ダメ!」
その怒鳴り声に一瞬びくりと体が跳ねた、これのおかげで眠気も一緒に吹っ飛べば良かったのだが、俺の脳味噌は未だ眠ったまま、体だけが仕方なく動いているという状態
「眠れなくても布団の中で目ぇ瞑ってたらそのうち眠くなってくるって」
「眠れないのに真っ暗な中で布団の中に入ってシーンってしてるのが嫌なの!凄い嫌!」
「俺が隣に居てやるから良いじゃん?」
「嫌だ!暗いの怖いもん」
「じゃ電気つけたままで寝るから」
「電気ついてたら眠れないじゃん」
お前は何でそんなに我が侭なんだ?どこから産まれてどういう風に生きてきたらそうなれるんだ?と聞きたい
「だって俺は眠ぃんだもんよぉ」
「我慢して!」
どうして俺が我慢しなきゃならないのか一つも理解出来ないが、仕方なく黙ってコイツの言う通りにさせてやるのがいつもの「喧嘩にならない秘訣」だと納得してしまっているのだから我ながらどうしようもない
「絶対似合うよ?」
「んー」
「絶対綺麗だよ」
「んー」
「って聞いてる悟浄?」
「んん」
聞いているつもりではいる
「聞いてないでしょ?」
「んん」
聞いているつもりではいる、悪魔でつもりでは
「出来た!!」
睡魔の狭間でコイツの声に呼び戻される、せっかく眠れそうだったのに、淡い期待は結局は叶わぬ夢に終わった
「見て悟浄!」
さっきからコイツが塗り絵代わりに使っていた俺の爪は、見事に真っ赤に彩られていて
「うわ、」
「綺麗でしょ?」
冗談じゃねぇ、と言いたいところだが、コイツの輝く瞳を見る限り、至って真剣らしい
「悟浄、指長くて綺麗だから、絶対似合うと思ってたよ」
真っ赤な爪イコール、エロいおねぇちゃん、と変換してしまう俺の脳味噌が悪いのか、自分の爪に艶っぽい感情を抱いてしまったことは否めない
「エロい」
「なにそれ、綺麗じゃなくてエロいなの?」
「何か……わかんねぇけどエロい」
「なに自分の爪に欲情してんの、馬鹿じゃん」
「馬鹿じゃねぇよ!」
いや、やっぱり馬鹿かもしれない、結構似合うじゃねぇか…なんて思ってしまったことは口が裂けても言え無いが、湧き上がるこの欲求を何処へ向ければ良いのか分からず持て余してしまう
「最近はお洒落で男の人もネイルとかするんだよ?」
「んん」
「悟浄お洒落だし、容姿も良いから様になってるよ」
「んん」
「って聞いてる悟浄?」
たまらなくなった俺はコイツの腕を思い切り引っ張り体ごと引き寄せ抱き締めた
「あぁ!なにすんの悟浄!」
「んん」
「マニキュアまだ乾いてないのに!」
「眠ぃ……」
俺の爪の色がコイツの体に感染して、染まってしまえば良いと思った
「服についたら取れないんだよ!」
日頃の仕返しにと、コイツの体を契れるくらい強く抱き締めて勢い良く押し倒した
「イタっ!」
俺の髪がコイツの肌を撫でる度、赤く染まっていくその皮膚、深紅の瞳で見つめれば、コイツの目は赤く潤んでく、それからこの赤い指先で、今からコイツの全部を侵食してしまう
本当は、俺みたいな奴は、そんなことばかり考えてしまう駄目な奴で、コイツの全部を自分のものにしてしまいたくて、そればかりで
どんな我が侭だって聞いてやるつもりでいた、どんな身勝手にも付き合ってやるし、コイツの為なら何だって出来る、コイツの笑顔の為にいつだって死ぬほど優しくしてやりたいから
「っ、悟浄……」
だから頼むから、そんな声で呼ばないでくれ
「ざまみろ、」