もう日付も変わろうかという頃、ライドウは目付役を叩き起こした。
「ゴウト、行くよ」
ささやき声にくすぐられてゴウトの耳が震えた。
「なんだ?何処へだ。見廻りか?珍しい……」
其のまま抱き抱えられそうに為るのをひょいとかわす。
「お、おい、ライドウ」
ライドウはゴウトが手をすり抜けたことにもかまわず、歩きだしてしまった。
余程急いでいるらしい。
慌ててゴウトは其のまますたすたと歩いていくライドウを追い掛ける。
「雷堂の処」
ちらと振り返ったライドウが短く答える。
漸く返ってきた質問の答えと、見えた表情に、ゴウトはまた此奴は何か企んでいるなと頭を垂れる。耳も垂れた。
「何をしに行くのだ」
「新年の御挨拶に……」
足早にアカラナ廻廊へ向かうのを、ゴウトは何だか恐ろしい様な気持ちでついていった。
「そんなもの、今じゃなくとも良いだろうが」
もうゴウトはうんざりしていた。
予感した様に恐ろしい程の速さで、文字通り悪魔を薙ぎ倒していくライドウを見ていると、暖かな布団が恋しくて堪らなかった。
「今、此の瞬間でないと駄目なんだ」
悪魔の首が飛んできて、返り血を避けながら何故新年を迎えるのに血生臭い思いをしなければ為らないのか、さっぱり分からんと苛立ってくる。
「何故」
「新年早々、もう一人の自分と顔を合わせるだなんて僕だったら最悪だから」
「おまえ……」
たかだか嫌がらせの為に此処までするのか。
「本当に雷堂の事が好きなんだな」
また一体斬り伏せると、ライドウは破顔一笑、「勿論」と言い、「でもゴウトが一番だから」と不意に抱き抱えて接吻けた。
ゴウトがもう何も言うまいと口をつぐんだのは勿論、ライドウは思惑通り雷堂に年明け初っぱなから盛大に其の記憶に自分を刻む事に成功した。