ぽつり、と雨粒が一滴、頬に当たったかと思えば瞬く間にそれは量を増して落ちてくるようになった。
「……糞、おい十四代目、事務所まで走るぞ」
言い終える前に走り出した雷堂に並びながらも、ライドウは「僕は濡れても構わないのですが」と宣った。
「莫迦。我は洗濯物を干していたのだ。早く取り込まないと大変な事に為る。其れに制服がずぶ濡れになると後始末が面倒なのだ」
「僕の知った事ではありません」
泥濘に足をとられたゴウトをとっさに抱き抱えたら水溜まりを思い切り踏んで舌打ちした。
「貴様、今何処の世話に為っていると思って――」
「雷堂のところ」
喚きながらも左右の足の出すタイミングまでぴったりな二人に、業斗が「おまえらは本当に仲が良いな」と面白がった様子で言った。
そうこうするうち、事務所に着いた二人だったが、ライドウは雷堂が外套の雫を絞るのをぼんやり見ていた。
伏し目がちに為って、瞳はふっさりとした睫毛に隠されている。
傷があって、ほんの少し引きつれた瞼は不思議と優しげに見える。
其処で睫毛に水滴がついているのを目にしたライドウは、ふらりと雷堂に近寄った。
「何だ、貴様まだそんな格好でいたのか。早く雫を絞れ…………?」
頬に当てられた右手に反応するより速く、ライドウの唇が傷が通っている方の瞼に触れた。
「…………っ」
ライドウは突き飛ばされて、其の勢いのまま尻餅をつく。
「貴様っ!一体何をする!」
混乱を隠しきれていない雷堂が握り締めた拳が震えているのを、全く自らが何をしたのか分かっていないらしいライドウが、驚きの表情を浮かべて見つめていた。
未だライドウに抱かれていたゴウトが下ろせと喚いた。