雷堂は、ぼんやりすすき野原を歩いていた。
今は依頼の帰りで、とっくのとうに日は暮れて月が顔を見せていた。
業斗は背の高いすすきを厭って、雷堂の肩に乗っている。
「雷堂」
静かな声のした方へ顔を向けると、同じくゴウトを肩に乗せたライドウが此方へ向かって来るところだった。
その手に一本だけすすきをぶらぶらさせながら、のんびり歩いてくる。
「なんだ貴様……こんな所まで」
まさか夕食が待ちきれなかったなどとは言うまい。
一応、料理は出来るのだし……
「貴方の帰りが遅いから」
そんな事を言ってはいるが、大体の理由は雷堂には解っていた。
「貴様、我が遅いから寂しくなったのであろう」
くつくつと喉を鳴らすと、逸らされる目。
「そういうのではありません。なんて自意識過剰な人だ。恥ずかしい」
厭そうな顔をして見せるのは何時も通りだったが、今日は何を思ったのか、直ぐに寄せた眉を緩めて雷堂と目を合わせた。
「……、嘘です。貴方に逢いたくなって……寂しなりましたので」
照れているらしく、無意味にすすきを振り回して、ゴウトに見せている。
ゴウトは嫌々ながらもそれに反応してしまい、ライドウは愉しそうに微笑んでいる。
ゴウト殿も苦労するな、と思う。
「何時もそうやって素直になれば良いのに」
貴様は勿体無い。
其れには何時もの調子で、ふんと鼻を鳴らし、「たまにだから良いのですよ」と一言。
「其れよりも」
此方へ、と手をひかれるままに着いていくと、其れなりに拓けた所に行き着いた。
「今夜は十五夜ですよ」
言われて空を見上げれば、満月。
サマナーと言えど、月の満ち欠けには敏感だったが行事までは頭に入れていなかった。
ああ、とついでにライドウの機嫌が良い理由も思い当たった。
彼方の自分は満月が好きらしく、厭に機嫌が良くなって、目付け役を伴って夜に散歩にまで出掛ける始末なのだ。
「月見団子を作って来ましたので」
食べましょう、と腰を下ろす。
「貴様が作ったのか」
綺麗に丸い団子を見つめる。
「そうですが、何か問題でも?」
「いや……」
手をつけなければまた不機嫌になるだろうな、とそっと溜め息をついた。
この十四代目が作る料理は、異常なほど見目が良いのに比べ、異常なほど微妙なのだ。
「塩と砂糖、間違えてないだろうな」
ひとつ摘まんで注意深く口に入れる。
「……、む、……まあ、」
「どうです?」
何とも形容し難い。
不味い訳でもないが、そう旨くもない。
「……貴様にしては、よくやった」
「なんですか、其れ……」
何時もなら怒るが満月の晩は大抵のことは笑ってくれるので、雷堂は満月のライドウが厭じゃなかった。
「月がとっても青いから、遠回りして帰りましょうね」
月の光を浴びて妖艷に微笑むその瞳に吸い込まれそうに為って、思わず目を逸らした。
くっ、とライドウが咽を鳴らして嗤った。