ライドウが、椅子に座って読書をする雷堂に近づいていく。
何をするのだろうとゴウトが注目していると。
ライドウは長いその足を上げ、背凭れから上、雷堂の左肩辺りを蹴った。

思わず、えっ、と声が出た。
何故ならゴウトは、無条件で、無防備な人間に不意をついて襲うなんてことをする十四代目を、この方見たことが無かったからだ。
それも背後から、思いきり。
おまけに微笑みを浮かべて。

不意をつかれて、前のめりにうっと呻いた雷堂はゆっくりとライドウを振り返った。
当たり前だが、怒りの形相を浮かべている。

「おい、ライドウ……」
何してるんだ、と言おうとして、ぎょっとする。
なんと、雷堂が怒りの表情を一転させて実に愉快そうに笑っていたからだ。

「十四代目……」
ゆらりと椅子から立った雷堂は、未だ笑んでいるライドウに近付くと、手を振り上げ、ばしりとライドウの右肩を叩いた。

おい、と驚いた声が上がる。
それは業斗のもので、彼もゴウトと同じ様に雷堂の行動に驚いている様だった。

くっ、と声が洩れる。
「ははははは」
それは、どちらのものであったか。
呆然とする、ゴウトにも業斗にもわからなかった。

それからである。

十四代目同士の、殴り愛が始まったのは――

雷堂が背後からライドウを殴る。
お返しと言わんばかりにライドウが雷堂を蹴る。
そんなことは、日常茶飯事であった。

ライドウは手より足が出、雷堂は足より手が出る。
段々と目付け役二匹にも解ってきた。
だが、何故二人が其のような奇行に走るかは解らず仕舞いであった。

ゴウトは聞いてみた。
「ライドウ、おまえ……、彼方の十四代目の事をどう思っているんだ?」
厭いなのか、という問いにふるふると首を降り。
「そりゃあもう……」
だいすき。
うっとりとした顔で言われて、ゴウトは益々解らなくなって、閉口した。

二人と二匹で原っぱを歩いていたその日も、雷堂が歩いている所にライドウが足払いをかけた所から始まった。
雷堂は倒れる力を利用してライドウに掴まり、引き摺り、二人一緒に草の上を転がりながら叩く、殴る、蹴る、最後には噛みついてまでいた。

また始まった、と目付け役は溜め息をついた。
でも、と口を開いたゴウトに業斗がなんだ、と聞く。

「彼奴等、似てると思わないか」

「犬か」

「嗚呼、それも子犬だ」

確かにな、と業斗が呟く。

子犬が兄弟で噛みつきあって、他への加減と言うものを覚えていくような……

「あんな風に笑うライドウを初めて見た」

「うちの雷堂もあんな風に笑ったことは無かったな」

ごろごろごろごろ転がって、見つめ合った末に接吻けをし、また手が出る足が出る。

「まあ、任務に支障がなければ良い」

そんな少年二人を見たまま、ゴウトがのんびり言った。
そうだな、と業斗も返す。

「今、人への加減を覚えておけば、堪忍袋の尾が切れたとき、勢い余って鳴海を殺した、なんてことは無くなるだろうし」

そうそう、とうんうんゴウトが頷く。
「あのぐうたら野郎には、いつ切れても可笑しくないからな」

其処で、漸く満足したらしい二人が、あちこち痣をつくって草まみれなのを払いながら、帰ろう、と二匹に声をかけた。

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