さて今宵も鍛錬と、向かったアカラナ回廊に見知った人影。
「十四代目」
来ていたのか、と声をかけると、ライドウはびくりと肩を震わせて振り向いた。
「雷堂……、こんばんは」
なんだかそわそわと落ち着かぬ様子に、首を傾げる。
「どうした?どこか負傷しているのか」
なかなか合わない目に、不審そうに聞く。
「あ、い、いいえ」
いつもどもることなど無いのに。
さらに首を傾げる雷堂。
それを見かねたのか。
「雷堂にならいいだろ。教えてやれよ」
と、肩に乗っていたゴウトがライドウの学帽を払い落とした。
あっ、と二人の少年の声が重なる。
「そっ、それはどうしたのだ!?」
嗚呼……、と溜め息をついたライドウの頭には、黒い毛並みが艶めく猫の耳が生えていた。
「よく見りゃ尾っぽまでつけて、一体どこでつけてきたんだ?」
言葉を発せずにいる雷堂の代わりに、業斗がからかい口調で聞いた。
「それは……」
ライドウの話によると。
生まれたばかりのネコマタ……、もとい、ネコマタになったばかりのまだ若いネコマタに頼まれ、ゴウトの毛を使いつつ擬態の練習に付き合っていた。
ら、擬態失敗、ライドウには黒い耳と尻尾だけが残されたという。
ごく簡単な事であった。
「そ、そんなこともあるのだな……」
「うっかりしてました」
恥ずかしさからか、僅かに頬を染めて言う。
「それは、擬態を解除しても治らぬのか?ヴィクトルの所へは行ったか?」
「治りませんでした。何しろ失敗ですので。ヴィクトルは、一日経てば治るだろうと言って、また実験だか研究だかに戻りましたよ」
最後は一寸投げやり気味だった。
「して、何故ここに?」
悪魔に八つ当たりか?という言葉に首をふり、鳴海さんに……、と小さく続けた。
「鳴海さんに、若しこんな姿を見られたら、……」
嗚呼……、とまたも溜め息をつくと、だから、隠れていたのです、と小さな声がした。
確かに、あの鳴海に見られるなど末代までの恥……、雷堂には、解りすぎる気持ちだった。
「そ、そうか……、然し、此方に一晩来るにしても、此方にも鳴海が居るしなあ……一晩、此処で戦い続けるのも難しかろう」
「学帽取られなけりゃ大丈夫だろ、さっさと帰って寝ろよ」
業斗はおそらく見つかるであろうと解りながらも帰宅を促した。
「そうだ、ライドウ。もう今日は遅い。さっさと布団に入れば鳴海もわからんよ」
ここぞとばかりにゴウトも言う。
多分、日の明るいうちは言っても聞かなかったのであろう。
「業斗殿まで……」
そうだぞ、と雷堂も乗る。
「いざというときは、殴るなり斬るなりすれば良いことではないか」
「そうですね……、そうします」
其れでは、と挨拶をして、外套を翻しライドウは去っていった。
なんて物騒なことを言う餓鬼共なんだ、と二匹の猫は思ったが、鳴海ならいいかと、黙っていた。