花期花会






 頬を撫でる心地よい風に目を覚ます。
 差し込む光の眩しさに俺は少し目を細めた。陽光は既に部屋の中を満たしている。
 隣を見れば、愛しい恋人の安らかな寝顔。
 自然に口角が上がる。引き寄せられるように顔を寄せ、その頬に口付けを落とす。
  
 何気なく見やった窓の外には、満開の桃花が咲き誇っていた。
 思わず感嘆のため息が漏れた。
 成都の春は聞きしにも勝り、美しかった。
 今度花見にでも誘おうと思い立つ。百花繚乱のその様はきっと息を飲むくらい幻想的だ。

 ふわりと、一枚の花びらが枝を離れ、春風に舞い上がる。
 何とはなしにその行方を見つめれば、ふわふわと漂った後、こちらへ舞い込んできた。
 それは軽やかに趙雲の黒髪に降り、薄紅色の彩りを与える。
 そんな偶然にも擽ったいような愛しさが込み上げてくる。
 
 そっと呟く。
 
「会えて良かった」

「そうだな」

「!?」

 まさか返答があるなんて思わなかった。彼は瞼を少し持ち上げ、婉然とした微笑みを浮かべてこちらを見つめていた。

「起きていたのか」

 顔がかっと火照るのを感じた。趙雲はそんな俺の顔をみて、くすくすと笑う。 
 
「起きる頃合いを見失ってしまったんだ」

 貴方が口付けなんてするから。
 そう言われて先の自分の行動を思い返すと、ますます恥ずかしい。
 照れ臭さを隠すように、がばりと趙雲を腕の中に閉じ込める。
 
「わっ!」

「愛している」

 じんわりと広がる温度を噛み締めながら伝えた言葉。そして背に回される腕。

「私もだ、孟起」

 花の命は一瞬だ。人の命も一瞬だ。
 だからこそ、出会えたことこそが奇跡。
 
 ああ願わくば、次の花期も貴公と迎えん、と。




相原様の「箱庭療法」より、1111hitのリクエストでいただきました!!

す、素敵です…!!
甘い雰囲気の二人に心打たれます…

素敵なお話をありがとうございました!

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