そんなことなど、
判りきっていた筈だった。

永遠などないということ。
共に生きてはいけないこと。
この関係も長くは続かないということ。


わかっていると言いながら、共に在りたいと呟き彼を困らせてきた。
しかし彼は優しい人だ。そんな私の言葉をしっかりと受けとめ、「今は共にいる」と囁いてくれる。
私は彼の優しさに甘えている。
これは、私だけが知る彼の優しさ。

あの時もそうだった。





「何が欲しい?」


二人きりの逢瀬の最中、ふと彼が聞いてきた。
本当に突然のことだったから、思わずそのままの言葉で聞き返す。
すると彼は苦笑しながらも私の頬を撫でた。


「その言葉の通りだ。何か欲しい物があれば何でもやろう」


なぜそんなことを、
そう呟くと彼は表情をそのままに腕を私の背に回した。
耳のすぐ隣で彼の音が聞こえる。


「別によかろう?…言ってみろ、何でも用意する」


背を撫でられながらも思考を巡らすが、どうも欲しいものが見当たらない。
物には不自由していない上、彼から共にいられる時を与えられているだけでも幸せだからだ。
しかし、滅多にない彼からのその言葉を無駄にしたくはない。
自分なりに考えた末、唇からポロリと言葉が零れ落ちた。


証がほしい。


彼は不思議なものを見るような瞳を私に向けた。
無理もない、それだけでは抽象的すぎる。
ぽつりぽつりと言葉で補っていくうちに彼の眼は細められていく。
私のほしいものは、ある意味で無茶な注文だった。


「…そうか、」


彼はふと頬を緩め、私を抱き締める力を強めた。
これが彼からの贈り物なのかと感じながらも、私もまた彼の背に腕をまわした。









それから数日後のことだ。
いつものように逢瀬をし、彼の腕の中で眠りにつく。
だが、目覚めた時には彼はいない。
それが常だった。


しかし、この時は違っていた。
目覚めたところまでは同じ。
広い小屋の中、たった独りでいる寂しさ。
それを紛らわすかのように勢いよく起き上がったところで、近くから金属の擦れる音がした。

寝台の上にいる自分の周りからは、布が擦れる音しかしない筈。
刃物でもあるのかと身構えたが、ふと視界に入ってきた光るものが存在を出張してきた。


…それは、首飾りだった。
鳳凰の紋様が彫られ、碧色の小さな宝玉がはめられている。
思わずそれを手に取った時、布の間から木簡が床へと存在を示すかのごとく転がった。
転がった時に紐が解けたのか、それは私へ文面を見せている。


『これならば、私と共にいた証になるだろう?』


首飾りを手に取り、そっと身につける。
自分の首に丁度良い大きさで、動いても邪魔にはならない。

私が欲しいと言ったのは、彼と共にいたという証。
まさか、こうして証を与えられるとは思わなかった。
また彼の優しさに甘えることになってしまった。
けれどその優しさに甘える度に、この心は安らぐのだ。


「……ありがとう、」


呟いた声を受けて、首飾りの宝玉がきらりと輝いた。




丕趙版クリスマス。曹丕サンタさん。

梨苑さんに捧げます

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