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ナミダザクラ
沖田君の場合
(このシリーズはお題サイト「確かに恋だった」様よりお借りしました)




「明日から寂しくなりますね。先輩と口喧嘩出来なくなるので」

桜は蕾のままだ。この日に卒業する先輩方と同じ様に。それぞれが自分色に咲き誇る未来を夢見て旅立つのだ。なんてことを、禿げた校長が全校生徒の前で長々と話していたっけ。卒業式を終えた沖田先輩の制服は案の定ボロボロだった。勿論釦は一つたりとも残っていない。

「相変わらずモッテモテですね」
「なにそれヤキモチ?」

手を伸ばせば掴めるこの距離も、明日から無くなってしまう。普段から糸の無い凧の様な人物だ。そんな先輩が、私の知らない世界へ行ってしまう。それでも可愛げの欠片も無い私は気の利いた言葉さえ贈ることが出来ない。

「自惚れんな」

彼の見る新しい世界に、私は存在しないのだ。その内すっかり忘れてしまうのではないだろうか。この気持ちの正体に気付いてからと言うもの、無性に怖くて堪らなくなる。

「じゃあ何で泣いてるのかな」

その涙が零れ落ちる前に長い指で掬ってくれた彼は、何時もの余裕のある企んだ様な笑みで無く
、びっくりするくらい優しい笑顔を浮かべていた。

「元気でね」

その言葉の中にどういった意味が含まれるのか、聞くことは出来ない。只、このままでは本当に先輩は行ってしまうとだけ悟ったのだ。

「なに突然、先輩ぶってるんですか。……ずるいですよ」

ああもう涙が止まらないなんて知った事か。今伝えないと後悔すると思った、だから。

「憎まれ口ばかり叩いてましたけど、大好きでした」

先輩と過ごしたもう戻らない日々は思い出になんてしない。これから先もずっと、彼方を好きて居続けたいから。大好きって言葉は、口にしてみたらこんなにも気持ち良かった。ずっとずっと、閉じ込めててごめんね。

「知ってたよ」

強引に腕を引かれ、世間一般に見れば抱き締められたであろうこの状況に、ついていけなかったのは仕方無い。

「待ってるから」

全てファンである女子生徒の手に渡ったであろう釦、それも第二釦をポケットから取り出した先輩は、何時もの意地の悪い笑みでそれをこの手の中に掴ませた。
桜の匂いが鼻を霞む。来年の今頃も、桜と彼方が今と同じ景色を作り出してくれるだろうか。



110320

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