情けないご主人様
 2014/08/14
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ピンチなリナリアを助ける華火の話。
華火が憑依すると中身だけでなく外見のカラーリングまでも華火基準になります。
メタモルフォーゼだ、メタモルフォーゼ。






何をやってるんだ、この馬鹿は。
他人なんかを庇って多勢に喧嘩を売るなんて、これを愚行と呼ばずして何と呼ぼうか。
目の前で首を締め上げられていく主人(仮)に目をすがめる。
息も絶え絶えになってゆく彼は、しかし負けるつもりは無いらしかった。
自分より二回りは巨大であろう相手にも全く物怖じしない。

「……んだよ…っ…大した握力じゃ、ないな…。…てめぇら、全員…ただの雑魚…じゃねぇかっ…」

何だってそう無駄に挑発するのだろう。
煽られた当人のこめかみには青筋が浮かび、鉄パイプやらバットやら、思い思いの武器を構えたギャラリーの空気は一気に冷えていく。
と、主人(仮)が鈍い呻き声を上げた。
いよいよ本格的に締め上げられている様で、無様に舌を出してもがいている。
ほら、こんなろくに抵抗も出来ない状態で煽るから。
周囲がドッと笑い出す。
いつもの僕なら同じようにこの場面を嘲笑ったかもしれない。
しかし今日の僕はいつもと違った。

(笑えないなぁ)

主人(仮)の苦痛は僕のご馳走な筈なのに、今日はやたらと胸糞悪い。
このまま僕が傍観を決め込めば彼は恐らくこちら側の仲間入りを果たすだろう。
そう思うと余計にイライラして仕方がない。
ギャラリーの下卑た笑いがそれを更に助長させ、遂に僕を行動させる迄に至った。

(久々に、生きた拳で何かを殴りたい)

無駄に長々とこの世に留まっているだけあって、僕の霊としての力は相当高まっている。
呼吸困難で今にも死にそうな餓鬼一人の意識を奪うくらいわけない。
一瞬視界が0になり、次に目を開いた時、僕の身体は随分重く熱いものになっていた。
ついでに言うならば息苦しい。

(あぁ、そういえば息苦しいってこういう感じだったな)

懐かしすぎて思わず笑みが浮かんだ。

「な、何だこいつ……見た目がいきなり…っぐあぁ?!」

しかし久方ぶりの生身に感動している場合では無かったのだ。
取り敢えずこのままではまずいので、喉を掴む男の腕を掴み、そのまま折った。
放り出す様にして解放され、ややふらつきながら着地する。
込み上げてくる咳も、重力に従う身体も、早鐘の如く鳴る心臓も、全てが懐かしい。
確認する様に両手を握ったり開いたりしてみて、ようやく今の自分が生身であるという実感が湧いてきた。
別に生き返りたいという願望は無いのだが、やはり少しテンションが上がってしまう。
約800年振りに踏み締めたアスファルトは随分硬く思えた。

「っの…何だ……何なんだよてめぇはよぉ!!」

先程の男が腕を押さえうずくまりながら叫ぶ。
それに釣られる様にしてギャラリーからも野蛮な声が飛んでくる。
この物騒な雰囲気もまた懐かしい。
盗人同然の働きを繰り返して食い繋いでいた幼少期をぼんやり思い出しながら、僕はちゃっちゃと男に近付き、その腹を蹴り上げた。
途端に黙るギャラリー。
かはっ、と息の塊と唾を吐いた男は、小刻みに震えながら身を丸くした。
その頭を景気よく踏みつける。
何度も何度も何度も踏みつけて、楽しくなってきた頃に男は動かなくなった。
一応加減はしておいたから、死にはしないだろう、多分。
この身体の持ち主が犯罪者になるのもそれはそれで困る。
はて、どの程度なら正当防衛とみなされるんだろう。
考えながらちらっとギャラリーの方に視線をやると、全員が一斉にびくつき後ずさった。
間抜けも無能も度を過ぎると少し可愛く見えてくるものなのかもしれない。
僕はそっと笑って彼らに言った。

「主人の仇というわけで、ちょっとボコらせて下さいましね」

あぁ、度を過ぎたお人好しのご主人様。
見ず知らずの他人の為に死にかける愚かなご主人様。
今日だけは、貴方の肩を持ってあげましょう。

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