猫パロ(4)
 2014/04/18
人外組がにゃんこになってる話パートよん。
伊勢とがいが枯雲さんちに遊びに行ったよ。



「へぇ、教授も猫飼ってるんですか!」
「うん。双子の黒猫なんだけどね、すっごく可愛いんだ〜」
「えぇー見たい見たい!超見たい!」
「…良かったら、見に来るかい?」



伊勢と枯雲は生徒と教師の関係だ。
大学一年生である伊勢は、その持ち前の明るさと人当たりの良さで、あっという間に友人を増やした。
その中に、あろうことか教育者側である枯雲も入っていた。
単純に人間としてお互い馬が合ったらしく、講義の後に仲良く雑談を交わす光景も珍しくない。
二人の会話の内容はもっぱらがどうでもいい世間話に近い。
授業に関する話をしている事もあるにはあるが、大抵はただただ緩いやり取りである。
昨日観たドラマの話だとか、コンビニで見つけた新商品の話だとか。
そして今日話題に上がったのは、猫だった。
きっかけは「今日大学来る道すがら、可愛い野良猫見たんですよ」などと言い出した伊勢だったか。
そこからあれよあれよと猫談義に花を咲かす内に、お互いに猫を飼っている身だという新事実が発覚した。
意外な共通点に賑わう二人が、互いの愛猫を見たいと願うのは、ある種当然の流れであった。




「……此処、で合ってるよね?」

送られてきたメールに記された道を忠実に辿り行き着いたマンション。
方向音痴の気があると自覚している伊勢は多少心配になったが、マンション前で立ち止まっていても仕方ないと踏み出した。
その手には水色のケージが握られている。
大した重みを感じさせないそれを極力揺らさない様に注意しながら、伊勢はエレベーターに乗り込んだ。


伝えられた階に着き、伝えられた番号の部屋のインターホンを鳴らす。
大した間を置かず、中から「はいはーい」とのんびりした声が近付いてきた。

「やぁ、いらっしゃい伊勢君」
「こんにちはー」

扉を開いて彼を出迎えた枯雲は、講義をしている時と変わらない白衣姿だ。
休みの日もこの格好なのか、と心の隅で思いつつ、どうぞ入ってと言われるがままにお邪魔する。
通された先はわりと広めのリビングだ。

「適当にくつろいでてね。今お茶淹れてくるから」
「あ、教授、これどうぞ。お土産、俺の家の近くにあるケーキ屋さんのシュークリームです」
「えぇっ、いいの?わぁー、ありがとうっ。じゃあ早速頂くね、お皿出すからちょっと待ってて」
「はい、ありがとうございます」

キッチンへ向かったのであろう枯雲を見送る。
一人になった伊勢は、手にしたケージをそっと床に置いてからリビングをぐるりと見渡した。
ソファにテレビ、テーブルと、至って普通の様相である。
が、壁際に置かれた、やたら難しそうなタイトルがいくつも並んでいる本棚は少し勝手が違った。
シックな木造のそれは、床に近い部分に妙な傷をいくつも持っている。
一瞬首を傾げる伊勢だったが、その正体にすぐさま思い当たりこっそり笑った。

「教授の猫達がやったんだろうな」

聞いていた通り、かなりやんちゃらしい。

「今から会うのが楽しみだねー、がい」

可愛らしい丸テーブルの前に設置された低めのソファに腰掛け、ケージを膝の上に乗せる。
中で大人しく丸まっていた白猫が、みゃあと小さく鳴いた。
今日の主役は何といっても猫達である。
彼らの親睦が上手く深まる事を祈って止まない。
そうしてこれからの展開をほのぼのと想像している伊勢の足首に、突如痛みがはしった。

「ぁだっ!?、え、な、何何!?」

突然の事に心底驚き、ケージを抱えて飛び上がる様に立ち上がった。
混乱しながら足下を見ると、影みたいに黒い子猫が二匹、毛を逆立てて唸っている姿を見付けた。

「え、あ、…えっと…君達が双子君?っていたたた!痛い痛い!ちょ、やめっ、ごめんごめんごめん!何かよく分かんないけどごめんなさい!いたっ!」

牙を剥き出しにしている彼らに恐る恐る声を掛けた瞬間、煮詰めていた緊張が弾け飛んだ。
恐ろしい形相で身の毛もよだつ様な唸り声を発しながら、影の双子は伊勢に襲い掛かってきた。
鋭い爪でズボンや服にしがみつき、容赦無く噛み付く。
全く予期していなかった事態に、伊勢はただ意味の分からない謝罪を繰り返す事しか出来ない。
抵抗しようにも両手はケージで塞がっているし、何よりよそ様の飼い猫相手だ。
変に振り払って怪我でもさせたら大変だ。
しかし、このままだと怪我をするのは確実に自分だ。
結局何も出来ないままあたふたと不恰好に逃げ惑っていると、盆を持った枯雲が帰ってきた。

「大丈夫?何か騒がし…あぁぁ!?こっ、こら双子君!何してるの!やめなさい!」

リビングで繰り広げられている一方的すぎる大乱闘に、さしもののんびり屋とて度肝を抜かれた様だ。
テーブルの上に盆を置いてから大慌てで伊勢に駆け寄り、彼に纏わり付いていた二匹の黒猫を引き離す。

『やだやだ!止めないでよ博士!はーなーしーてぇー!』
『このマフラー野郎あいつの飼い主じゃん!ぶっ殺させて!』
「もうっ……こら!暴れない!お客様に何て事するの!」

ぎゃーぎゃーと鳴き募る飼い猫達に向かい、珍しく険しい表情をした枯雲が声を荒げる。
途端、双子は暴れるのをやめ、耳をしゅんと伏せた。
先刻までの悪魔の様な振る舞いとはかけ離れたリアクションに、枯雲の後ろで成り行きを見守っていた伊勢は「おぉ」と呟いた。
そのズボンや服はあちこちがほつれてしまっているが、彼自身には大した傷は残っていない。
所々がヒリヒリするものの、見てみれば薄い掠り傷があるだけだ。

「伊勢君ごめんっ!うちの子達、何て言うか、ちょっと人見知りなとこがあって…でも普段はここまでしゃないのに何で…。とにかく、本当にごめんね、大丈夫?」
「あ、はい、全然大丈夫ですよー。ちょっと掠り傷が出来た程度なんで。双子君も、いきなり知らない人がうちにいてビックリしちゃったんだよね?」

可哀想なくらいに眉を八の字にした枯雲が頭を下げる。
伊勢はそれに笑顔で首を振り、彼の腕に捕まっている双子に向かって話し掛けた。
黒猫達はろくに伊勢の方を見ようともせず、不貞腐れた様に尻尾をパタパタと動かしている。
その反応が暗に「さっさと帰れよ」と言われている様で、伊勢は少し困った笑顔を浮かべた。
と、抱えたままになっていたケージから突然白猫が飛び出してきた。

「うわっ!と……ビックリしたー」
『伊勢、伊勢……大丈夫?怪我は?』

上手く身を竦めてそのダイブを受け止めた。
しきりに鳴き声を上げるがいは伊勢が心配でならない。
自分の姿を見てまた毛を逆立てた双子の事など眼中に無いまま、飼い主の体調を気にかける。

「あぁ、さっきの騒動でケージの鍵が空いちゃってたのかな…。大丈夫だよがい、そんな不安そうに鳴かなくていいからね」

その想いにしっかり返事をしてふわふわした顎を撫でてやると、がいは少し落ち着いた様で、鳴くのをやめた。
代わりにうるさくなった双子に、枯雲はまた尖った声を上げた。


その後、「悪さをした罰だよ」と双子は枯雲の部屋に閉じ込められてしまった。

『むぅー……何でこうなるかなぁ。僕らはただ、あいつとあいつの飼い主が気に食わなかっただけなのに』
『流石に博士の目の届く場所で絡むのはまずかったかもな。博士、あいつらの事お客様って言ってたし』
『じゃあ、あいつらがお客様じゃない時に、博士にばれない様にこっそり叩きのめせばいいんだね!』
『だな!よし、今から作戦会議だ!』

散らかった部屋の中で始まった、斜めの方向に前向きな彼らの作戦会議は、来客が去るその時まで続いたのであった。

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