君に願いを
ここは稲妻町商店街。
7月6日…つまり七夕の前日。商店街は次の日の七夕に合わせた装飾をし、そしてセールなどを行う事によって大勢の人でにぎわっている。
特に、商店街中腹に設置された笹の葉コーナーには人が集まっていた。
特設された幾つかの長机で短冊に願いを書き、自分の手でつるす。「願い事叶うといいなー」なんていう小さな子供の声も聞こえて、にぎやかに、そして楽しげな雰囲気が漂っていた。
「いいか、絶対に見るんじゃないぞ」
「剣城こそ、見ないでよ?」
だがそんな中、笹に体を向け、しかし横目で睨みあうと言うなかなか異様な二人組が居た。
二人は願いを書いた短冊を吊るすべくこうしている。
しかし、二人は中学生。つまり短冊に書く願い事を見られたくない年頃である。
それが交際関係の相手であるなら尚更だ。
そして今のお互いを睨み合い制止するに至る。
「天馬、先に吊るせ。お前が吊るしたら吊るすから」
「だったら剣城あっち向いててよ」
「…嫌だ」
「じゃあ嫌だ」
だんだんと順番を待っている人が苛々としてきていて、イベント係員が人物が二人を注意するべきかを迷っている。
それに剣城も天馬も気付いてはいるが、それでも目線は反らせない。
しばしの無言。
「…しょうがない、か…」
そして、先に口を開いたのは剣城だった。
「すみません。これ、後で吊るしておいて貰えませんか?」
「え?」
疑問符は二重だった。天馬と、注意しようとしていた係員だ。
まさかこちらに振られるとは思わなかった係員は少し戸惑っているが、提案内容は一向に構わないので了承する。
「いや、でも」
「このままじゃ埒があかない。頼んだ方が良いだろ」
「まあ…そうだけど」
「だろ?――すみません。じゃあ、お願いします」
二人は係員に願いを書いた短冊を――勿論裏向きで――渡し、そして一礼して商店街を去って行った。
※ ※ ※ ※ ※ ※
7月7日、七夕当日のすっかり日が落ちた頃。
短冊を吊るしやすい様に低く、すこし斜めに設置してあった笹が天に向かって真っすぐに立てられた。
「いいか、絶対に見つけるんじゃないぞ」
「剣城こそ、見つけないでよ?」
そしてそれを見ようと集まる人だかりの中に、また前日と同じようなやり取りをする二人組が居た。
ただし、今回はやり取りは口だけ。二人はしっかりと笹を見つめていた。
ガラス張りの天井越しに見える紺碧。
商店街の明かりに照らされて輝く七夕飾り。
色とりどりの短冊。
色のコントラストが生む幻想性は、見る物全てを魅了した。
「天馬」
天馬が見惚れていれば、剣城が口を開く。
「何?」
「来年も、見たいな」
え?という声に、照れくさそうに剣城は目線をそらす。
逸らしたかと思えば、左手をからめ捕られて、繋がれた。
「…また、一緒に」
商店街を、弱い風が吹き抜けた。沢山ある短冊が、くるりと揺れた。
天馬は思った。
――願いが叶ってしまいそうだ。
願いは君が叶える
(剣城と一緒に居られますように)
(天馬の願いを叶えてやれますように)
7月12日までお持ち帰り可。
イチャイチャさせてみようとの試みです。
が、ちょっと長くなりました…
夫婦になる前(の、お付き合い状態)はこのくらいの距離感が管理人は理想です。