イライラ、する。
ここ最近毎日イライラしてイライラして無性に腹が立つ。それはもう、八つ当たりで犬を苛めたりするほどに。それどころか止めに入った千種や落ち着くようにと促したクロームにさえその被害は及んでいた。
八つ当たりをしても治まらない怒りに似た感情に、骸はどうしていいか分からなかった。


その感情の行き場は分からなかったが、どうしてこんなにもイライラするのかの見当はついていた。
沢田綱吉、である。
憎く恨んで止まないマフィア。その時期ボスである綱吉に骸は以前から好感は持てなかった。むしろ嫌っている。
それは綱吉もそうだろうと骸は思う。一度は命を狙われ今だって自分の身体を虎視眈々と狙っているのだからそれで嫌っていなかったら相当の馬鹿だ。


そんなことを考えているとまたイライラとしてきて胸のムカつきが蘇る。
そして考えた、原因を消してしまえば良いのではないかと。






思い立ったが吉日、とでも言うのだろうか。並盛へと来た骸は綱吉の姿を探した。
綱吉の家なんて知るはずもなく、交友なんて全くない間柄なので綱吉が行きそうな場所も知らない。大体、並盛で知っている場所すら限られている。適当に探してもいいがそれでは時間の無駄。さてどうしたものか…。


「あ、れ。骸…?」

呼ばれた名前に振り替えると沢田綱吉本人がすぐ近くに立っていた。
自分よりも数段低い背、キャラメルのような甘い色をした髪と瞳、自分の名前を呼ぶ年にしては少し高いその声も、綱吉を形作る全てが骸を苛立たせる。
ずくん、ずくん、と疼くように痛む心臓が忌まわしく無意識に眉を寄せる。
すると綱吉は睨まれたと勘違いしたのかびくり、と肩を震わせ一歩自分から離れた。その様子に骸は苛立ちを感じ、無性になにかを傷付けたくて仕方が無かった。

「えっと、久しぶり…?並盛に来るなんてどうしたの。」

びくりびくり、目を合わせないように喋る綱吉は完全に怯えている。手を無意味に弄ったりして、まるで義務的に、無理をして話しているかのように。
骸は、綱吉が友人と話すときはもっと笑顔で楽しそうに話すことを知っている。こんな、怯えてなんかいないことを。骸は自分に向けるこの表情が嫌いで嫌いで仕方が無かった。

こんな顔をさせたいわけではないのに、笑えばいいのに。
そこまで考えてはっと意識を戻す。何を考えているんだ、彼が笑おうが泣こうが関係無いだろうと自分に言い聞かせる。どうせ彼はこれから死ぬのだから、と。

「こんにちは、ボンゴレ。実は今日は君に会いに来たんですよ」

にっこりと嘘の笑みを貼り付けそう言う。殺しに来たのだから嘘は言っていないだろうと思考しながら。
もっとも、綱吉は骸と目を合わさないように俯いているため骸の顔など見ておらず声しか聞いていないのだが。
それを聞いた綱吉はぱっと顔をあげキラキラとした瞳で骸を見つめる。期待しているかのような喜んでいるかのような、輝いた目。そんな表情で見つめられたことが無かった骸は後ろ手に持っていた三叉槍を思わず落としそうになった。

身長差のせいで自然と上目遣いになる綱吉、そんな状態のまま見つめられ、恥ずかしそうに本当に…?などと聞いてくるものだから身体が強張る。
気付けば苛立ちは失せ甘い疼きだけが残る。それは心地が良いもので何だか殺す必要性を感じなくなってすらくる。というか、意味がないのではないかと。

いやいやいや待て六道骸。何をほだされかけているのだと理性が訴える。相手は憎きマフィアのボス候補、自分にとって悪影響を与えるもの。そりゃ殺してしまうには惜しい器だがマフィアのボスなんてたくさんいる、替えはいくらだっているのだ。沢田綱吉に固執することは無いと。

そう、思い直す。彼は只の標的、殺してしまえと。

「ええ、そうなんですよ。今日は君を殺しに来ました」

言葉を言い終わる前に三叉槍を綱吉の顔目掛けて刺す。けれど綱吉は間一髪でそれを避け三叉槍の先は空を切った。

ちっ、と小さく舌打ちを打ち素早く三叉槍を今度は硬直して動かない綱吉の首にあてる。少しでも動いたら血が溢れそうなほど、近付ける。

綱吉はというと、その大きな瞳をこれ以上ないほど見開き顔は真っ青になり冷や汗が頬を伝っていた。目線だけで何故?と問うてくる綱吉は面倒だとばかりに溜め池を吐いて話した。

「君、邪魔なんですよ」

この手に力をこめれば綱吉は容易く死ぬだろう。そう考え骸は三叉槍を握る手にぐっと力をこめた、時だった。
綱吉が泣いていた。ぼろぼろと瞳から大粒の涙を溢して、子供のようにみっともなく。目が溶けてしまいそうなほど泣く綱吉に骸は急に、頭の中が真っ白になり冷水を浴びせられたかのように全身に寒気のようなものが走る。感じたことのない感情が身体を満たす。胸が痛く申し訳ないという気持ちでいっぱいになる。罪悪感、とでもいうべきなのだろうか。そのあまりの衝撃に骸は冷静になる。一体何をしているのだろうと。
「……帰ります。興醒めだ」

三叉槍を離し、手の中にあったそれを消す。綱吉に背を向け振り返ることなく黒曜へと足早にその場を去る。
興醒めなのは自分じゃないかと心の内で罵りながら。綱吉を殺すために並盛へ来た。それに迷いは無かった。けれど本人を目の前にしてそんな気は失せてしまい泣き顔を見ただけで胸がざわつき何もせずに帰るだなんて。あの、六道骸が。数えきれないほどの人を殺し、残虐にして残酷。冷酷非情なあの六道骸が少年ひとりを殺めることさえできないなんて。
けれど不思議とそこに苛立ちの感情は無かった。逆に綱吉の泣き顔を思い出して胸が痛んだ。こちらまで悲しくなってしまいそうだ。




イライラは増すばかりだった。


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