「僕はもう子供じゃないんです」
開口一番にそう言われ、綱吉は思わず苦笑した。
六道骸と沢田綱吉は家が隣同士で所謂幼馴染みという間柄だった。
ただ、骸は15歳、綱吉は24歳だったので幼馴染みというよりは年の離れた兄弟みたいだと綱吉は考えていた。骸の方はそう考えていないのだが。
10歳近くも年が離れていて綱吉は立派な社会人。そんな綱吉から見ると中学生の骸はまだまだ子供にしか見えないのだが、そういうのが気に入らない年頃らしい。少し子供扱いをするとすぐこう言うのだった。
「はいはい、文句は車の中で聞くから取り敢えず中入って?」
家から離れた所にある中学校に通っている骸は家から学校までの道を綱吉に車で送り迎えしてもらっている。
ドアを開け入るように促すと骸は渋々といった表情で後部座席へ荒々しく座った。その様子にまた苦笑いを溢すと骸がミラー越しに睨んできた。子供扱いされたと思ったのだろう。
「で、何が気に入らないの?」
車を発車させながら問う。骸は相変わらずむすっとした表情をしてよそを見ていたがやがて口を開いた。
「……全部、です」
「全部?」
予想外の返答に思わず鸚鵡返しになる。いつものようにどこどこが気に入らない、と言うと思っていたのだ。
「綱吉くんはすぐに僕の事を子供扱いする。何かあれば頭を撫でたり、僕の機嫌が悪かったらチョコで釣ったり。他にも…」
骸はつらつらと文句を言っていくが綱吉はそう言われてもなぁ、という気持ちになってしまう。
綱吉は骸が赤ちゃんの頃から知っているのだからどうしても弟のように感じてしまうし、可愛くてついつい甘やかしてしまう。事実、綱吉は骸を叱ったことが一度もない。元々あまり怒らない綱吉の性格もあるだろうが、いくら理不尽な事を言われても綱吉は笑って応えてしまう。
送迎のことだってそうだ。送り迎えをしてほしいと言い出したのは骸。綱吉にだって仕事があり、今の時間帯は本来は働いている時間だが上司に無理を言って抜けさせてもらっている。骸は、そのことを知らないけれど。
「つまり、僕の事を子供じゃなくて大人扱いしてほしいんです!」
「……でも、」
「はい?」
「骸のことを大人として扱うならこの送り迎えだって無くなるし、休みの日に家に来たり行ったりしてゲームしたりもなくなるよ?」
綱吉の発言にぴしり、と骸が固まる。そこまで考えていなかったんだろう。そういう単純な所が可愛いんだよなぁ、と綱吉は思う
「うっ、それは…嫌です、けど」
「だろ?それじゃあほら、家に着いたしこの話は明日にしよう?」
「………」
がちゃり、とドアを開けるが骸は車内から出ていかない。不思議に思って振り向くとふっ、と影が出来た。骸の整った顔がすぐ近くにあり、それがどんどん近づきぼやけていく。ちゅ、と唇に軽い感触。目の前にはぼやけた骸の綺麗な顔。それが離れていきようやく焦点が合う。整ったその顔に見惚れていると骸がぽつりと小さく呟いた。
「もう、子供じゃないんです」
呆気にとられている内に骸は車内から出て家の中へと消えた。ぼうっとそれを見ていたが直ぐに我に返る。
「…大人をからかうのはずるい、よ。」
どきん、どきん、と心臓が激しく脈打つ。紅潮する頬、骸の表情が頭から離れない。
(だって、いつからあんな…)
(あんな骸は知らない、あんな…まるで"大人"みたいな骸は、)
(だって心臓が鳴り止まない、)
目を閉じれば鮮烈に、浮かび上がってより顔が赤くなる。
明日の朝どんな顔をして会ったらいいんだとか、何話せばいいんだとか、そういうのがぐるぐると頭の中を駆け巡った。
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某さんへの誕生日プレゼントです!
前にブログにかいてあったのがツボったので!考えていたのとは違うと思いますが。
実は骸も真っ赤になっちゃってたりとか、骸が大人になったときに綱吉がしてくれていたことに気付いて自分は子供だったなぁ、と思い出を振り返ったりとかも書きたかったんですが…!
長すぎちゃうので割愛しましたすみません。