"ムクロ"は自室のベッドの上に踞り思考していた。
今日も綱吉くんの表情は曇っていた、と。
自分が好きなチョコ菓子も食べたし、歪みなく綱吉くんと会話もした。お互いに笑い合った。
けれど…、それは彼の本物の笑顔ではない。データにあるソレとは違うのだ。

自分は綱吉くんのためにいる。それは作られたその時から決められたこと。綱吉くんのために自分は存在しているのだ、彼が幸せであるために行動するのが自分の役目。
しかし、"ムクロ"は彼が心の底から彼が今の生活に幸福を感じていないのを知っている、気付いている。
その理由は、……分からないけれど。
いくら複雑な計算が一秒以内にできたって、広辞苑の内容を全て把握しているぐらいの知識があったってヒトの心は複雑怪奇。機械には一ミリたりとも理解できはしない。

「つなよし、くん」

呟いたのはマスターの名前。自分を作りだしてくれたこの世で一番大切なマスターの名。
そこまで考えて"ムクロ"は何故か胸に激しい寂寥を感じた。しかしすぐに思い直す。自分はアンドロイド―所詮機械。そんな人間独特の感情は持ち合わせていないと。


"綱吉くんの幸福"
それを実現するには一体どうしたらいいのだろうか。より人間に近く振る舞えばいいのか、より徹底して綱吉くんに従えばいいのか、それとももっと別の…。
幾ら今の状況を打破するための解決策を検索してもヒットするものはない。

"ムクロ"はとても有能なアンドロイドだった。しかし有能だからこそ"ムクロ"は人間に憧れていた。
マスターと同じ種の人間に焦がれていた。




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