気が付いたら道を歩いていた。見知ったような、けど覚えのない矛盾した道程を。

「…寒い。」

思い出したかのように呟けばふわりと目の前に白い一滴。

――雪、だ…。

雪の存在に気付いた途端、世界が形を変える。
目の前が真っ白になり足元には雪が積もっており歩く度にぎゅむぎゅむと音が鳴る。歩を止め、白い世界を見つめる。
何の音もしない静寂、寂しいなと心が訴えた気がした。

どこか現実味の無いこの世界。
嗚呼、これは……――

「「幻覚」」

呟いた声に重なる低いテノールが耳に響く。すぐ後ろから聴こえてきたそれに驚き振り向けばそこには、


「む、くろ…」

小さく呟いた彼を表す単語に、骸はにこりと笑った。

頭では、この世界が幻覚だって事を分かっていたのだから作り出したのだって誰か、なんて想像がついていた。けど、目の前にいる人物に驚きが隠せなかった。

「…綺麗、でしょう?何処までも続く道と覆うように降り注ぐ雪。この世界には僕と君しかいない」

そう言って骸が手をゆっくりと宙に上げた。すると何もない空間から暖かそうな上着とマフラーがぽんっと出てきた。
それをオレに着させる骸。そういえばオレは制服のままで。どうりで寒いわけだと納得した。
因みに骸はちゃんと冬服を着込んでいて、それがまた似合っていて少し見惚れた。

「…綺麗だとは思うけど、寂しい。かな?」
「……ほぅ、」

骸がオレの手を取り歩き出す。さく、ぎゅむ、さく、雪の音が小さく響いた。
なんとなしにさっき骸が言った事に言葉を返す。すると骸は興味深そうにオレの顔を覗き込んできた。

「どうして?」
「だって、……」

返そうとして言葉に詰まる。どうしてそんな風に思ったか、明確に言葉に表すことが難しい。国語の成績が悪いからなおのこと。
うんうんと唸りながら考えるオレの横でふっと骸が笑った。

「分からないのならいいんですよ、価値観なんてものは人それぞれだ」
「…うん」

なんだか自分がひどく子供のような気分だ。(実際子供だけど)
さく、ぎゅむ、さく、ただ黙々と道を歩く。繋いだ手に、すこし力が入った、骸もオレも手袋はしていない。素肌と素肌の感触。
骸の手は冷たかった。


「ねぇ、どこに向かってるの?」

どれくらい歩いたんだろうか。時計なんてないから分からないけど大体十分ぐらいは歩いた気がする
前も後ろも真っ白で何も見えない。
そもそも、この幻覚は何時になったら解けるんだろうか。端から見たら男ふたりが仲良く手を繋ぎ歩き続けているだけだ。

「綱吉くん、この道はどこへ続いていると思いますか?」

質問を質問で返されてしまった…。
釈然としないものの、考えてみる。

「……オレの家?」
「ブー、はずれです」

くすくすと、悪戯が成功した幼子のように無邪気に骸が笑う。中学生らしい、年相応の骸の姿。
正直、可愛いと思ったのは内緒にしようと思う。(だってそんなこと言ったら「可愛いのは綱吉くんの方です!」とかなんとか言って拗ねるのは目に見えてる。)

「じゃあどこに向かってるの?」
「秘密、です」
「なにそれ」

結局、答えなんか言うつもりなかったんじゃないか。そう反論してやろうと思ったけど、骸があまりにも幸せそうに笑うから押し黙ってしまった。

「綱吉くん」
「んー?」
「綱吉くん、」
「…なに?」
「綱吉、くん…」
「………」

段々泣きそうな声になる骸に、心臓が痛くなる。
どうしてそんなに悲しそうなの?
泣きそうなの?何がツラいの?

「……綱吉くんとふたりきりなら幸せになれると思ったんです」
「うん、」

絞り出すような声でポツリポツリと呟く骸に相槌を打つ。

「今、とても満ちた気分だ。幸せだと、感じるんです」
「うん、」
「でも何かが足りないと、そう思っている自分がいるんです。こんな僕は高慢なんでしょうか」
「……」

オレは馬鹿で、ダメツナで。骸の気持ちなんて汲み取る事も出来ない。骸が足りないと言う何かに気付くことも出来ない。分からない

「骸、」
「……はい」

ぎゅうぅ…っと繋いだ手に力を込める。骸を安心させるように緩く微笑み、足りない何かの代わりにと、代わりに埋めてあげられればと、精一杯の気持ちを込めて紡ぐ

「大好きだよ」

そうすれば骸は泣きそうな顔をして笑った

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