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2020.08.17 Mon 00:08
土銀
夏祭り



 「7時にはココに戻って来いよ!」

 鳥居を指さして神楽に告げると「ウン!」と元気よく叫んで走り去っていった。大丈夫かな、ちゃんと覚えてるかな、あいつ。

 江戸の祭りの中じゃ、結構な規模らしいこの夏祭りはさすがの賑わいを見せる。出店でも冷やかそうかと考えていたら、神楽が近所のさつきちゃんだったかひとみちゃんだったかに誘われたらしい。

  変な野郎に声かけられたりしなきゃいいけど。どうせ顔見知りの連中ばっかが集まる祭りだろうし、つーか大抵の大人より強い神楽のことを心配するのも妙な話だが、年頃の娘っちゃあ娘だ。

 「……まァ定春もいるし大丈夫か」

 鼻孔をくすぐる焼きとうもろこしの匂いが、思考を鈍らせる。チョコバナナ、かき氷、綿菓子、りんご飴。ずらりと並ぶ出店は最早視覚と嗅覚を襲う暴力だ。

 「お、銀さん!」

 声をかけてきたのは顔見知りの定食屋だった。湯気が立ち込める鉄板の上にはこんもり盛った焼きそばがじゅうじゅうと音を立てる。

 「なんだ、店出してんのか」

 「まァな、稼ぎ時だからよ、夏は」
 ほら食ってけよ、と気の良い笑顔を見せられて値札に眼を落す。

 「600円?たっけーよ、まけろ」

 「あん?祭りなんて大体そんなもんだろ」

 江戸の連中はこれだから。商売上手といや聞こえはいいが、なんてことはない、がめついのだ。

 俺はぜってぇぼったくられねぇ、と財布の紐をしめたつもりなのに、甘味には逆らえない。気が付けば、大粒の氷がなんとも夏祭りらしい、かき氷を手にしていた。ふわっふわのかき氷ってのもうまいけど、これはこれで情緒があっていいんだよな。

 次は何にしよう、絶対綿菓子は食いてぇ、と視線を巡らせていると、浮かれた子どもたちやカップルに混じって、帯刀に黒い隊服、どう見たってカタギじゃない連中が視界に入った。

 中でも険しい顔で人混みに眼を配るその男は、祭り会場の温度を数度下げてるんじゃないのか、というほど。ほらほら、ヤンキー風の兄ちゃんが気まずそうな顔してるじゃねーか。
 
 まーこんなときにご苦労なこって、とこぼした言葉は、胸中にとどめたつもりが口に出ていたらしい。ばっちり眼と眼がかち合い、男がこちらに向かってくる。やべぇ。

 「何ふらふらしてやがる」

 「すっげー言いがかりだな、オイ。ただ純粋に祭りを楽しんでるだけですぅー」

 自分に分が無いと感じたらしい土方は、土方はちっ、と軽く舌打ちをしたあと煙草に手を伸ばす。祭り会場でも平気で煙草を吸いやがって、不良警官め。

 「なんつーもん食ってんだお前」

 手に持っていたかき氷を指差される。シロップかけ放題、なんて気前の良い店だったから、イチゴにブルーハワイ、メロンにレモンと好きなだけかけて、止めは練乳をたっぷり。店主にも呆れられたかき氷は、すっかり色が混ざってグロテスクな様相を呈していた。

 「……あれだよ、銀時スペシャル」

 「なんだそりゃ」

 「食う?」

 と、かき氷を乗っけたスプーンを土方に差し出して、まずった、とすぐに後悔する。コイツが俺から差し出されたものを食うわけがねえ。そもそも、甘いモンなんて好きじゃねえだろうし。これで「気持ち悪ぃんだよ」なんて言われたら腹立つだろうな。

 そのはずだったのに、土方は特に嫌がる様子もなく、俺が差し出したスプーンをそのまま口にした。自分から食うかと持ちかけておいて、面喰っちまう。

 「甘ったるくてしょうがねえ」

 案の定、顔をしかめる土方の反応は読めていたけど俺の方はまだまだ動揺が止まらない。これアレか、間接キスになんじゃねーの?つーか俺が「あーん」なんてしたみたいじゃねーか。周りに真選組の連中もいんのによくやるな、とぐるぐると心の中の叫びが巡る。

 何なんだよこいつ、と変な汗が止まらない俺とは対照的に、なんでもないような顔をしている土方が腹立たしい。副長そろそろ、と駆け寄ってきた隊士に促された土方は、また雑踏の中へと戻っていく。

 ぼうっとしている俺に、振り返りざまの土方が「はしゃぎすぎてこぼすんじゃねーぞ」と。……んだよ、そのガキに言うような言葉。

 頬が熱くなるのを感じて、誤魔化すように必死にかき氷をかっこんだ。キン、と頭が痛くなる。


2020.08.17 Mon 00:07
土銀
浮気未遂



「土方のばかやろー」

 口に出してみてうわぁ俺、ベタな恋愛ドラマの主人公みてぇ、と恥ずかしくなった。そんな俺はカウンター席のひんやりとした机とお友達。だって酒でほっぺたが熱くて熱くてしょうがねえんだもん。

 まーまー銀さん、忘れようぜ、とビールを勧めてくる長谷川さんは、競馬で大勝ちしたからか羽振りも機嫌も良い。

 そこまでべたべたした関係性でもないから、土方は「男で2人きりで飲むな」なんてことはいちいち言ってこない。ちなみに「女と2人きりで飲むな」とも言わない。そういう関係なのだ。それでも「今日長谷川さんと飲んでてさ」なんて気軽に言ったらそのあとの行為で手ひどく責められたから、あんまり好ましいことじゃないんだろうな、とそれ以降触れるのはやめた。

 だけどそんなもん知るか。3回連続で会う約束を破られりゃ、俺のことなんてどうでもいいんだろうなとしか思えない。あーあーこういう思考がすでに面倒くさいんだろ、分かってる。

 万事屋の電話がなって3回目の謝罪の言葉を告げられたとき、さすがに笑って許すことはできなくて、ただ分かりやすく怒るのもシャクだから「あっそ、いちいち謝らなくていいよ」なんて無関心にくるんだ棘が、子どもじみてる。

 「飲んで忘れてぇ……」

 「お、飲んじゃいな飲んじゃいな」

 すでに何杯もやってる長谷川さんが注いだビールは、みるみるうちにグラスから溢れて、俺の手を濡らした。

 ……頭が痛い。次に目が覚めると、そこは見覚えのない部屋だった。さっきまでいた居酒屋の煙とメシの匂いもせず、かといってウチの匂いでもない、過剰なまでの芳香剤の香り。ぴく、と片手を動かせば、生暖かい何かに当たった。なんだ、と左を向けば、よぉく知った男の顔があった。

 「長谷川さん?」

 がぁがぁと豪快ないびきをかきながら眠っているのは、さっきまで飲んでいたはずの長谷川さんだった。そしてこの明らかに宿泊施設らしき室内、そこから導かれるのはつまりあれだ、

 「いやいやいや」

 勢い良く立ち上がり、まずは服を着ているのを確認する。よし、とりあえずは。身体に異常は?頭はがんがん痛むけど、確認するかぎり、何かがあったような痕跡は、ない。

 痕跡は見つからないものの「何もなかった」と言い切れるわけじゃない。だってほら、それに近い行為はあったかもしれねぇし。つうか、こんな場所にたどり着いてること自体、大概グレーゾーンだって。

 気持ちよさそうに眠りこける長谷川さんを置いて、ホテルを出た。外に出た途端、上から降り注ぐ日差しがあまりに眩しくて、天から責められているような気持ちになる。

 さっさとウチに帰ってシャワー浴びてぇ、と一歩を踏み出して、固まった。ホテルの中でパニックに陥る最中、頭によぎった男がそこにいた。真っ黒な隊服をかっちり着込んだ男は、いつものような背けたくなるほどに鋭い視線をこちらに向けている。

 怒鳴られるんじゃ、と覚悟したのに、土方は踵を返してその場から去っていった。おそらく俺との約束を破るきっかけとなった仕事を終えたばかりらしく、相当に疲れ切った様子に見える。眼の下の隈といつもよりぼさついた髪が妙に残って、責められるより、よっぽど胸が痛んだ。

 気付いたら足が勝手に動いていて、暑っ苦しい隊服を眼で追う。かける言葉は見つからないけど、また下らない喧嘩に繋がるかもしれねぇけど。二日酔いでけだるい身体に、はやる心が追い付かない。


2020.06.02 Tue 00:02
土銀、原作沿い
できあがってる2人

 じゃ、またな、と上から降ってくる声に対して「はいはい、いってらっしゃい」なんてほとんど眠りの世界につかりながら返事をした。たまには見送りとかしてくれよ、などとこぼす土方の声をBGMにしながら、二度寝へともつれこんでいく。

 そのはずだったのに、ジリリリリリ、と電話の音で叩き起こされた。自分ちの電話だけど、ちょっと暴力的なうるささじゃねえか。時計を見れば、まだ土方がうちを出てからそう立っていない。早朝ともいえるこんな時間になんだよ、となんとか布団から這い出る。

 「はァい、万事屋銀ちゃんです」

 「起こしたか、悪ぃ」

 電話越しに流れてくるのは、さっき帰ったばかりの男だった。朝早いとはいえ依頼かと思ったから出たのにてめーかよ。

 「なんだよお前か」

 「急に声低くなんな。……いや、ちょっとな。お前んとこに、警察手帳忘れてねぇか?」

 「警察手帳?」

 受話器から耳を外して辺りを見渡せば、ソファにそれらしきものがあった。あったけど、と布団に戻る気満々の声でそう言うと「悪ぃけど、それ屯所に持ってきてくれねーか」と頼まれたものだから「ゲッ」と思わず声に出してしまった。

 ぜってー嫌だ、このまま三度寝まで行くんだなどと言っていたけど、どうも今日の昼に捜査に行くとかでどうしても必要らしい。駄目押しは、人気洋菓子店のシュークリームだった。今度会うときに持って行ってやるからよ、なんて言われちゃさすがに行くしかない。

 「……やっぱ行かなきゃよかった」

 さっさと警察手帳だけ手渡して帰ろうと思っていたら、門番らしき隊士から「話は聞いてます。ささ、客間へどうぞ」なんてやけにかしこまった口調で通されるものだからまんまと中に入っちまった。

 やけに小奇麗な客間で茶とまんじゅうがふるまわれたのは、まだいい。むしろまんじゅうはうまかった。問題なのは、ふすまの向こうで明らかに野次馬らしき隊士たちがのぞき見している、ということ。

 「あれが副長の」や「副長から惚れたらしい」だの、副長副長うるせーよコイツら。つーか真選組の中で俺と土方の関係性がバレバレなのもどうなんだよ。

 ざわざわと噂話が消えない客間で、まんじゅうも食いきってなんとも居心地が悪い。さっさと来いよ土方、と貧乏ゆすりが出始めたその時、ぴたりと声が止まった。

 「何してんだてめーら」

 寺子屋の先生のごとく落とされたカミナリに隊士たちは「すみませんした!」と口々に謝っては去っていく。

 「おめーやっと来やがった!遅ぇんだよ!」

 「すまん、ちょっと手ェ離せなくてな」

 大して悪そうにも思ってなさそうな表情の土方にまた腹が立つが、とにかくだ、と警察手帳を手渡した。

 「お前さ、嫌じゃねえの」

 「何が?」

 「……俺と、こういう関係なのバレてんの」

 忘れがちだけど、土方は隊内では幹部の位置にいるわけだ。そんな男が朝っぱらから恋人を呼びつけて、なおかつ相手は男で、なんて、示しがつかねぇんじゃねえか。別に誰からそんなことを言われたわけでもないが、こうもざわつく屯所にいるとそう思わざるを得ない。

 「どこが嫌になることあるんだよ」

 だが不可解だ、というように眉間に皺を寄せる土方を見て、そんな考えもどこかへ行った。

 「つーかアレだ、むしろ見せつけてるつもりだった」

 「……アホだ、こいつ」

 だが、そんなこいつの答えにそう気を悪くしていない俺も、大概のアホだな。



2020.06.02 Tue 00:02
土銀八
3Zフォーエバーの第3講のネタ

 「どーすんだよ、これよォ」

 そりゃ、ぼやきたくもなる。朝は弱いから、ただでさえホームルームは苦手だ。教師がホームルームを苦手なんて言ってたら、理事長のバーさんにどつかれかねないけど。それに加えて、ばたばたと騒がしい教室に、飛び交う声の数々。

 いつだったか、受け持っている生徒たちが人獣化やゲームのキャラクターに変化してしまう、なんてとんでも事件が起きたことがある。あんなSFじみた事件は夢だ幻だ、と忘れてしまっていたのだが。

 消しゴムを投げ合う近藤と桂、最早懐かしいプロフィール帳を交換し合う妙と神楽と九兵衛、教室の中でやけのフワッフワした素材のボールでキャッチボールをする新八と山崎。元々うるせえ奴らではあったが、これはさすがに退行しすぎではないか。小学生にまで精神年齢が巻き戻った連中が、教室中で好き勝手遊びまわっていた。
 
 「オイそこ!とりあえず部屋ん中でキャッチボールはやめろ!」

 「河上!お菓子の箱と輪ゴムでギター作んな!」
 
 「長谷川ァ!ギリギリ絵面的にキツいんだよ!」

 何が悲しくて本来18歳の連中にこんなアホらしい注意をしないといけないのか。ぜーぜーと肩で息をしていると、ぐい、と白衣を引っ張られた。

 「先生」

 騒がしい教室の中でもすっと耳に入ってくる、馴染みのある低音。「せんせい」ではなく「せんせー」という幼い発音ではあったけど。これ以上の面倒はごめんだぜと恐る恐る振り返れば、やはり土方十四郎だった。

 「……どぉしたの、土方くん」

 つられて俺も口調が幼くなる。普段のつっけんどんとしたこいつならともかく、小学生化した土方はやけに俺になつっこいので無下にもできない。

 「これ、先生に書いてきたんだ」と、手渡された封筒(ノートの切れ端を折りたたんで作ったやつ)を開ければ『先生好きだ。付き合ってください 土方十四郎』とシンプルな一文が。

 「しょ、小学生ならではのストレートなラブレター!」

 犯罪になるだろ俺が!と頭を抱えるも、土方は全く気にする様子もなく、真っ直ぐな眼で俺を見る。依然として白衣の裾を握りしめたまま。つーかいい加減離してくれ。

 「答えは?」

 眼をそらすとか恥ずかしそうにするなんてことは一切なく、早く答えろと言わんばかりに迫る土方は、あぁ小学生らしいな、と普段なら微笑ましくなる勝手っぷり。しかし、外見は俺と同じ体格の野郎なものだから、最早危機さえ感じる。

 「えーと、その、」

 付き合えない、と言えば傷つけてしまう気がする。だが誠実に説明するにも小学生メンタルのこいつでは理解できないんじゃねえか。そしてもちろん、YESと答えるなんざもってのほか。

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ生徒たちの中で、ほとんど迫られる勢いで中身がガキになった教え子に告白の答えを待ち望まれている。どういう状況よ、これ。 

 頼むからさっさと戻ってくれ、と心の中で強く強く願うのに、前回のように意識が飛んでくれる兆しはない。



2020.06.02 Tue 00:01
土銀
パトリオット工場のネタ

 面接のとき、工場長は俺の過去について特に触れなかった。履歴書に目を落としながら「土方君はさ」と切り出されたときには少し身を硬くしたが。続く言葉は「仕事って好きか?」と。この面接で何をどう答えるかが正解かは分からなかったが、少し考えて「もちろん」と答えた。小細工なしで考えて、やはり俺は仕事に打ち込んでいる時間が好きだったから。結果は、採用だった。いささかの選考期間などを置かず、帰り際に知らされたのだった。

 工場長は、名のある職人の家に生まれたらしい。また、若くして綿々と受け継がれる家柄から抜け出したらしい、とも聞いた。すべて「らしい」なのは、工場長自ら、俺に過去を話してくれたことはないから。年齢すら定かではない。俺よりもいくつも年上のように思えるときもあれば、そう変わらない、むしろ少年のようにすら感じるときもある。

 けれど知っていることだってある、いくつも。毎日一回の昼休みには、必ず屋上に上がること。実は甘いものに目がなくて、こっそり屋上でコンビニで買った菓子を食べていること。工場長が菓子を食べているときに、俺が横で煙草を吸っていても、文句を言いながらどこかへ行けとは言わないこと。
 
 俺が仕事で失敗したとき、黙って缶コーヒーを差し入れてくれるような優しさも。ベタなドラマみたいっスね、と言いながら受け取ったコーヒーの味はなぜか忘れられない。至ってよくあるコーヒーだったのに。それからは、俺が工場長にコーヒーを奢ることも馴染みになった。俺はブラックコーヒー、工場長はミルクと砂糖がどっさり入った、カフェオレ。

 「散々な言われようでしたね」

 工場長が新商品の開発に乗り出す、と会議で切り出したときには、それはもう非難の声が飛び交った。そう経営がうまくいってるわけでもないのに売れるかも分からないような商品に熱を上げ始めたのだから。俺は決して飲めないような甘ったるい缶コーヒーを手渡せば、黙ってプルタブを引いた。

 工場長は俺に、言い訳も愚痴も零さなかった。ただ粛々と、やるべきことに向かうのだと思う。古株の社員たちが噂していた親父さんの話を、直接俺に話してくれる時はくるのだろうか。それが叶わないならせめて、隣でコーヒーを飲むことくらいは、許してほしい。


2015.03.04 Wed 23:26
別れ話で140字:土銀
目の前に座る男は、俺の恋人のはずだった。今はそう呼んでいいのか分からないけれど。
さっき言われた言葉を何度も頭の中で繰り返す。「嫌になった」だなんて、そんな関心のない眼で言わないでくれよ。
「……俺は別れるなんて嫌だ」
思わず出た女々しい言葉に恋人は、いらいらと髪を掻いて、ため息をついた。



お題はこちらからお借りしました。
診断結果:
銀時「別れてほしい」恋人「えっ…」銀時「もう嫌になった」恋人「やだよ…」

2014.09.08 Mon 00:05
「なんだって知ってた」
140字お題 :土銀

6月21日、お前は脚が痛いと愚痴った。7月6日、会話の途中に肩を抑えながら顔をしかめた。どちらも土砂降りだった。それが関係しているんじゃないか。

そう万事屋に教えてやると、蒼白な顔色に変わった。
古傷が痛むと悩んでいたから教えてやったのだ。お前に関わることならなんだって、頭に刻んでるだけなのに。


配布元はこちらから


2014.06.06 Fri 11:33
「唯一の、嫌い」
140字お題 :土銀


恋は盲目とはよく言ったものだ。妙な感情が一雫あるだけで、奇抜な銀髪もあちこち跳ねる天然パーマも、憎らしい文句ばかりこねるその口も相容れない生き方も全部受け入れる用意はできているのに。
ただ俺を見ないその眼だけが気に食わない。




配布元はこちらから


2014.05.06 Tue 07:05
140字:土銀
『大切だったはずなのに』


あいつの趣味の悪い柄の着物はずっと押さえつけていたからか皺が刻まれ、やけに白い太腿からは血液混じりの俺の欲が流れ落ちた。

誰でもない、俺がそうした。
受け入れられないことが虚しくて腹立たしかったなんてそんな子供じみた理由で。
あの赤い目は、もう俺を見ることはないだろう。




2014.04.04 Fri 23:19
「好きなのにね」 140字お題 :土銀



「お前みてーな天パで甘党誰が好きになるかよ」

「うっせーよ。ちょっとモテっからって調子こくな」

もちろんこんな口喧嘩、本気で罵り合ってる訳じゃない。
”お互いそんな事大して気にしてない”体で”軽口叩いてる”だけ。
少なくともこいつはそうだ。

だけどほんの2%でも、傷ついてくれてたら。
俺はきっと口先とは、真逆の事を言うのに。



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