私にも歌わせて(ミク,マスター,リンレン,ほのぼの)
 2011.11.30
最近マスターはなんだか忙しそうだ。

前はどうでもいいような話を喋ったり、聞かされたり、何時間でも色んな話をしてたのに、
今は何を話しかけてもいつも後でね、としか答えてくれない。

そして何より全く私を使ってくれない。いままでは夜遅くまで曲を作り続けて、私が心配しても楽しそうに私が歌うのを聞いていたのに。

あの新しい子たちがくる前は。

「ねえマスターちょっと聞いて…
「ごめん、後にして」
また遮られしまった。
マスターは新しく購入した双子のボーカロイドに話しかけている。
二人はきらきらした満面の笑みでマスターに答える。
「じゃあ、この部屋じゃうるさいから隣の防音室行こうか」
二人は弾けるような笑顔で返事した。
初めて歌を歌えて嬉しくてしかたないのだろう。

防音室と言ってもマスターが遮音布を壁やドアに貼り付けただけの部屋なのだけど。
でもそこには電子ピアノやギターなんかが置いてあって
前入った時にはマスターが弾くのに合わせて歌ったりしてとても楽しかったんだ。

前は私もあそこで毎日歌ってた。
甘い防音のせいでドアの隙間から笑い声や歌が漏れて聞こえてくる。

…これからずっとあそこに入ることないのかな。やっぱり新しいボカロが来て私にはもう飽きちゃたんだろうなー。
それとも発音が上手くないからかな。もう使ってもらえないのかな。
二度とあの部屋に入ることもないのかな。ー…


音が止みドアが開いた。出てきたマスターと目が合う。どきどきしているとぱっと笑った。
「ミクー、ちょっとこっち来てくれない?」
「えっ、いいんですかっ?」

「もちろん!」

防音室に入るのって数ヶ月ぶりだ。こんな風に話かけて貰うのも。
心臓がますます早く鼓動を打つ。

「早く来てよー」

マスターはドアを大きく開いて手招きしている。
この部屋に初めて入った日よりも舞い上がりそうな気持ちで、おぼつかない足で進んでいく。

中に入るとリンとレンもにこにこしながらこっちを見ている。

一体どういうことなんだろう。

「あの、マスター。何かあるんですか…?」
見上げるとマスターは軽く咳払いして

「えっと、今日はミクがうちに来た日なんだけど、記念になんか歌作ろう思ってね。でもリンレンで作るの難しくってさー。なんとかさっき出来たんだ」

そう…だったんだ…。ほっとすると何故かまた涙でてきてしまった。
「よかった、私いらなくなったんじゃないんですね」
思わず本音が口からこぼれた。

マスターは驚いた顔で
「え?何いってるの、そんなわけないじゃない!」

「ごめんなさい、最近全く使ってくれないからそう思ってたの…」
「え、そうだったの…。こっちこそごめん。できあがるまで内緒にしておきたかったんだけどそのせいでそんな風に思わせてたなんて…」
「でもミク、私絶対にミクのこといらないなんてことないから。あなたは大切な家族なんだからね」
「ミクが一年前に家に来てくれてからどれくらい楽しいことがあったか、そういうことを思って作った曲なの。じゃあ聞いてね」

ピアノの鍵盤を押さえると二人がくちを揃えて歌いだした。綺麗なハーモニーが部屋に響く。
胸の奥がじんわりするあったかい曲だ。

照れくさそうな顔でこっちを見る。
「どうだった?」

「凄くいい曲…。あたたかくてやさしい素敵な曲だわ。本当に嬉しい。ありがとうマスター」

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