ゴミ捨て場に巡る朝1(ミク)
 2011.08.28
「さっきやっと新しいミクが来たんだ。」
唐突だった。私はマスターの部屋で外出したマスターを待っていた。帰ってきたマスターはドアを開けてすぐその台詞をいった。

え、どうして?私と同じミクを?マスターはミクを2個も使うの?
すごい勢いで疑問が頭のなかを渦巻く。反対に身体はまばたき一つできずに停止していた。

マスターはいつもと変わらない笑顔で部屋の入口からこちらに近づいてくる。

「ほらだいぶ前からあなた高い音でなくなってたじゃない。他の音も時々でなくなってきたし。」
マスターは言葉一つ出せずに口元を震わせいる間に私のすぐ目の前にやって来た。

「だからごめんねー」私のヘッドホンの右側についている電源スイッチに手を伸ばした。

「さよなら、今までありがとう」

それが最後に聞いた言葉だった。
相変わらず笑い顔だけど少し残念そうに眉を下げたマスターが視界から消える。
電力が遮断され思考プログラムが働かなくなり私は意識を失った。



それから気がついたら私はここにいた。
最初に感じたのは冷たさだった。
どうやらスイッチの有る側を下にして横たわっているようだ。どこかから落とされたのか偶然力が加わり電源が入ったみたいだ。

目を開くと焦げ茶色の平たい物体が写った。一体何なのだろうこれは。
とりあえず寝転がっていた体を起こしてみる。

広さに目眩がした。辺りの色はやはり茶色だった。ーいや錆び色。
ずっと部屋しか見たことがない私が初めて見る壁のないどこまでも続く景色。そこは大小の形状も様々な壊れた機械が大きく小さく山を作って一面に広がっていた。

さっき見た物体はトラックの側面だったようだ。雨ざらしにされ塗装もすべて剥げ落ちて全て汚い茶色に色になっている。
そんな状態の車が何台もある。
他にもボンネットが取れて機器類が剥き出しな車、タイヤを突き出したバイク、合間に白さが映える冷蔵庫、もうなんだったか判別がつかくなった機械、
それから果てしなく遠く澄んだ青空。


ここからどうやってマスターのとこに帰ればいいんだろう。
一瞬考えて馬鹿馬鹿しくなった。
今まで部屋から出たことのない私にマスターの家を探し当てることなんて到底できる訳がない。

…大体帰ったってマスターはもう私を使ってくれない。



私はどうすればいいんだろう。マスターがいて歌を作ってもらわなければ私の存在には何の意味もない。
私は歌って聞いてもらえなきゃ居ないのと同じだ。あのままスイッチが入らないほうが良かった。

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